独創短編シリーズ 野崎まど劇場 / 野崎まど

学校の帰りに買ってきた『アクセル・ワールド12』を開くと電撃の缶詰が挟まっていたので、抜いてごみ箱に捨てた。するとごみ箱から突然眩い光が立ち上がり、中から光り輝く小さな女の子が現れた。―――『妖精電撃作戦』

電撃文庫MAGAZINE掲載やそのボツ原稿を収録したショートショート集。電撃文庫ライトノベルの流行とかそんなものは遠い彼方に投げ捨てて、野崎まどでしかない何かが広がっていました。とりあえず、帯の竹宮ゆゆこコメントが内容を非常に的確に表しているので、興味を持った人は見てみると良いと思います。
という訳でどんなものかと思って始まって2ページで「ええええええそれありなの!?」となり、一編読み終われば後はもう勢いで。アイデアが良くもこんなに次から次へと湧いてくるなあと思うようなバリエーションに飛んだ話が、どう考えても変なのだけどそれをまるで変じゃないように語るという突っ込みどころ満載加減で迫ってきます。その数驚愕の24編+α。野崎まどの長編にある妙なノリの会話劇だけを抽出したような感じですが、ショートショートなので設定というくびきから解き放たれて色々とひどいことになっている模様。
そしてショートショートなのですが、小説らしい作品もあるかと思えば、普通に漫才やコントであったり、ノリが2ちゃんのスレのようでもあったり、イラストを活用した奴は陣内智則のコントようだったり、えす……えふ……? とかみす……てり……? とか何かもう幅の広い感じ。そして発想が斜め上過ぎて、ショートショートだからこその逃げも隠れもできないセンスの勝負で、凡人にはできないことをやってのけているなあと思うことしきりでした。あと、総じて小劇団がやるコント系のオムニバス劇のような印象を受けたので、やっぱり演劇系の人なんだろうなとは思いました。
作品的には正直当たり外れがかなり大きい印象で、最初から最後まで真顔で読んでしまうものもあるのですが、ツボにはまった時の破壊力が凄まじく、しかもそれが想定外の方向からくるこの卑怯さ。ツボだったのは初手から私の知っている将棋と違う! な「第60期 王座決定戦 第3局」、まじょとぶたさんにどうしたら良いのか分からなくなる童話風な「森のおんがく団」、魔王が適度な難易度のダンジョン構成を考える「魔王」、イラスト+会話で繰り広げられるコントのような「苛烈、ラーメン戦争」「苛烈、ラーメン戦争-企業覇道編-」、おっさんで何が悪い! な人情系小咄「魔法小料理屋女将 駒乃美すゞ」、噛み合っていないのに噛み合っている会話が芸術的ですらある「TP対称性の乱れ」、そしていい話と見せかけた得も言われぬ読後感がたまらない「ライオンガールズ」とかなりの数に。
とにもかくにも気になったらまず一編読んでほしいなと思う作品です。読むときは吹き出しても困らないように人目を避けて、何があっても許せる広い心を忘れずに!