電波女と青春男 3 / 入間人間

電波女と青春男 3 (電撃文庫 い 9-12)

電波女と青春男 3 (電撃文庫 い 9-12)

「自分の意志で動いて、他人も動かす。最も初歩の、人間に許された超能力だろう?」

電波女第3巻は夏休み編。前の巻が女々さんが青春する話だとすると、今回は丹羽君が青春する話になっています。
この作品の持つ、どこか気だるげで、淡々とした雰囲気は相変わらず。苦しいことも楽しいことも当たり前のようにそこにありながら、世界を揺るがすようなことはなくて、それでも特別な日常が流れて行く。そして今回は丹羽君の物語だったこともあって、諦めをスタート地点にして、踏み出したほんの小さな一歩を謳いあげる。そんな青春物語になっていました。
この作者のこういう日常の描き方は、ありのままの背伸びしない日常を讃える感じで、たとえそれは甘さなのかもしれなくても、個人的に読んでいて凄くグッとくるというか、許されるような、癒されるような気分になります。丹羽君のリューシさんへの一言も、草野球での頑張りも、エリオが歩み出す一歩一歩も、リューシさんの諦めない強さも、全部まとめてとても大切で、愛おしいものだと思うのです。
そして、リューシさんからバスケの練習に誘われたり、前川さん家に招かれて手料理をふるまわれたり、エリオと夜な夜な天体観測にいそしんだりと丹羽君はモテまくり。懐いてるという感じのエリオと、真っ直ぐな好意を見せてくれるリューシさん、そして傍観者だったはずが少しずつ揺れて行く前川さんと三者三様の好意を持って接してくるのに、本人はいたって鈍感なものだから大変罪作りです。というか、一人称の文章では気がついてないふりをしているだけで、内心薄々分かっていながら皆から好意を向けられる今の状況を享受しているだけな気も。そう考えると女たらしなのかもしれません。
そして個性豊かなキャラクターはますます魅力的。リューシさんとの甘酸っぱい青春模様も素敵ですが、それ以上にエリオのイトコへの懐き方が可愛いかったです。どんなに困った子であっても、こんな風に頼られて懐かれたら、それは庇護欲をかきたてられるというか、可愛がらざるを得ないんじゃないかなと。今は保護者と被保護者なこの関係が、今後どう変わっていくのかも楽しみ。
そしてこの巻では宇宙服を着た自称宇宙人超能力者のヤシロが登場。人間離れした美しい外見と、ただ電波なだけにも、何かを悟った様にも思える言動を見せてくれたキャラクターでしたが、ラストシーンには驚かされました。このシリーズにはそういう要素はないと勝手に思っていたのですが、よくよく考えるとシリーズの根幹にかかわってくるような気もして、こっち方面の話も今後どうなるか気になるところです。
そんな感じで相変わらず素敵な青春物語でした。続きも楽しみに待っていたいと思います。