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86 ―エイティシックス― / 安里アサト

 

86―エイティシックス― (電撃文庫)

86―エイティシックス― (電撃文庫)

 

 電撃小説大賞 大賞受賞作。作者の書きたいことを全部詰め込みながら、エンタメ作品としてもレベルの高い、新人賞大賞作品らしい鮮烈な一冊でした。良く出来た、とは違う、ああこういう新人作品が読みたいんだよなと思えるような。とても良かったです。

帝国との戦争で劣勢を強いられた共和国は、自由と平等の国是を捨て、移民であった有色種に対する差別政策を取って、すべてを奪った彼らを85区外に追いやり、人ではないエイティシックスだと蔑み、そして帝国の無人機レギオンに対抗する、共和国の「無人」兵器ジャガーノートのプロセッサーとして戦線へ駆り出していた。

帝国が自壊した後も共和国国境を襲い続けるレギオン。諸外国からも完全に孤立した終わらない戦争の中で、仮初の平和を享受する白系種と日々死んでいくエイティシックスの少年少女たち。そんなプロセッサーを指揮するハンドラーの任についた白系種の少女レーナと、彼女が指揮することになったスピアヘッド部隊の少年少女たち。これはそんな彼女と、彼らの物語です。

白系種たちが当たり前に受け入れた人種差別政策を間違っていると考え、理想を振りかざすレーナという少女。彼女はとても正しく、善良で、そして青い。スピアヘッド部隊というエイティシックスたちの死を誰より見てきた少年たちとの会話の中で、彼女のそれは次々に露呈していきます。だって、彼女がどれだけ「対等な人間」として接しようとしても、彼女と彼らの立ち位置は違う。そしてそれは絶対に変わらない。そこに対等は存在し得ない。だから、彼女の善良さはたやすく自己欺瞞に変わってしまう。

この小説を読んでいると、共和国の現状やエイティシックスたちの現状にいくつか引っかかるところが出てきます。そしてそれは伏せられたカードのように、順を追って明らかになっていき、レーナに現実を突きつける。ここがどういうことをしてきた国で、自分がどういう場所に立っているのか。それが彼女が諦めずに交流を続けて、普通に会話をするところまでは近づけた彼らとの決定的な断絶で、それを彼らは最初から知っていたのだと。

それでも、明日死ぬかもわからず、実際だんだん人数を減らしていくスピアヘッド部隊よりは、レーナのいる場所は安全なはずで、それが絶望でも、自分たちは選ばれたものだと思い込めば仮初の平穏は得られる。彼女は、恵まれているはずで。でも、この作品が描きたかったのはそんな生き方じゃない。

だから、泣いて、怒って、あがき続けた彼女がたどり着いた言葉は

「おいていかないで」

それは彼らが自ら誇る、自らの道を、たとえ明日死ぬかもしれなくても選んだから。差別され続け、白系種を恨み、それでも白系種と同じことをするクズには成り下がらないと誓ったから。これは、誇りを失わず、矜恃を持って、最期まで戦い抜き、自らの道を切り開こうとした人たちを描く物語なのだと思います。

そして、それはレーナがその先にどう生きるかに繋がります。自身の立つ場所を理解してその意味を抱えて、プロセッサーの死体の上の道を行き、それでもいつかたどり着きたい場所があると。

ラストにかけての展開は、ともすれば甘いと言われかねないもので、でもやっぱりこれでなければいけなかったのだと思います。彼らも、彼女も、その道を選んだのだから、それは同じ方向を向いているはずだから。それを正しいと証明するのが、この物語だから。

帯にあるように、ラストの一文まで文句なし。魅力的なキャラクターたちが何を想い、何をしてきたか、知っているからこそ、この結末に泣きました。とても良かったです。

あ、でも細かい粗はあれどそれを気にさせないくらい引き込まれる物語なのだから、わざわざあとがきで言い訳をするのは逆にどうなのかなと、思ったり。その辺も含めて新人作品らしいとも言えますが。