THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 4thLIVE TriCastle Story10/15・16 @さいたまスーパーアリーナ

1stライブからずっと見てきていますが、私の中でシンデレラは純粋にライブパフォーマンスを追い求めるものではなくて、もちろん個人のパフォーマンスが凄ければそれは当然満足するのですが、それが目当てかと言われるとちょっと違うという感じ。じゃあ一門と言われるようなバラエティ性を求めているのかというと、それはそうなのだけどやっぱりちょっと違う。それで少し考えてみて、私がデレマスというコンテンツに求めているのは、この先180人超の誰が出てもアイドルになれる、そういうライブの完成度なのだろうなと、神戸の2日間を経て改めて思っていました。
なので、このアニメメインキャスト=今まで主にライブに出てきたメンバーを外してきたSSA1日目でシンデレラガールズを見せられるかどうかが個人的な最大の注目点だったんですが、最初に全員違う衣装着て出てきた時点でもうね、あかんですよね。あるべきものがあるべきところにハマった感じがして涙腺が。これほど見事に十人十色だけどみんなシンデレラガールズっていうのを体現する方法はないんじゃないかと思います。それぞれ全然違う衣装で同じ曲を歌ってるの、この感じがシンデレラなんだよっていきなり回答を見せられて、まだ半分以上のキャラクターに声がついていないシンデレラガールズは、この先誰が出演したってシンデレラガールズなんだって思えました。あ、大丈夫だって。「Brand New Castle」はとにかくこれに尽きます。


そして2日目は「346 Castle」。アニメがテーマということでいつものメンバー。1日目も凄かったしもう誰が出てもシンデレラのライブだと思っていましたが、ちょっと主力メンバーを舐めていました。場数の違い、積み重ねてきたものの違いがステージングの違いになって見えると、やっぱり彼女たちは先輩なんだなと思います。シンデレラのライブはパフォーマンス的にはまあこんなものっていう印象を吹き飛ばす、単純に凄いライブだったと思います。
そして『Star!!』『Shine!!!』から『STORY』をセトリの最初に持ってくることで、アニメを完結させるためのライブだった3rdと違ってこれはそれ以後のライブなんだと現在地を確かめながら、3rdでできなかった忘れ物を埋めていくようなライブでした。LOVE LAIKAやRosenburg Engel、3人のTriad Primusと、あの時見れなかったものが見れて良かったなあと。そして万感を込めた涙のライブではなくて、あくまでも余裕のある笑顔のライブとして346Castleを駆け抜け、宣言されたのが4つ目の城「Future Castle」。内容的には新CDシリーズに収録されているソロ2曲目の初お披露目だったのですが、ここでアニメにきっちり幕を引いて、デレステメインだった神戸、新しい子メインだったSSA1日目もひっくるめた5年目のマイルストーンとしての「Future Castle」を提示してきたことは大きいんじゃないかと。そしてこれこそが4thライブをこんなにコンセプチュアルな方向に振ってきた意味であったのだと思います。この4thで全部ひっくるめて一回まっさらにして、初心に戻ったような気分で新曲を歌って、さあこれから6年目に入っていくんだぞと。
そしてそこで歌われる5周年記念曲『EVERMORE』の歌詞が、初めてのステージ覚えてる? とここまで歩んできた道のりを振り返りながら、ここがゴールではなくて、更に先へ先へ進めと歌う曲で本当にグッと来るものがありました。これだけのものを総括するようなライブをやって、まだここは集大成じゃないんだな、通過点なんだなと。広がっていく、増えていく、進んでいく、終わらないという明快なテーマ。そして、この歌詞に説得力をもたせられるだけ積み重ねてきた物語がここにはあって、それならばこの先にはどんな景色を見ることができるのだろうと。

そういう意味で、今やらなければいけなかったことを、今のアイドルマスターシンデレラガールズでやりきって、これからのシンデレラガールズに繋げていく、シンプルで強烈なメッセージ性のある4thライブ4公演だったと思います。3rdも凄いライブだったとは思いますが、シンデレラ凄いなとこんなに素直に思ったのは、これまでで初めてだったなあと。



後は曲ごとの感想とか。

<演出とかステージとか>
・センターステージがシンプルな構成だったので今回はステージは大人しいかなと思ったら、メインステージに城が建ってた。どう見ても2階に登る階段があって、テラスがあるぞ……ってなりました。
・贅沢に液晶を使っていて、後ろのVJが曲ごとに世界観を作っていてすごく良かったです。2日目のアニメユニットのロゴが出る演出も素晴らしかったし、1日目のHotel Moonsideの演出の素晴らしさといったら。それからダンサーの皆様、レーザーや照明も含めて、今回はすごく演出が豪華で凝っていたように感じます。それが誰が出てもシンデレラガールズなライブを下から支えていたんだなと。


<開演前>
・ちひろさんの諸注意で「今日はライブが長いので……休憩はありません」と言われて困惑する。


<1日目>
・『恋のHamburg♪』でフライ返しを持って出てきた種崎さんはなんかずっと可愛かった。
・志貴さんはステージに飛鳥がいるぞっていう。他のキャストとは違って完璧なコスプレで、しかも本人の声が出るというチート。
・ 下地さんは歌が上手くてびっくり。流石にソロデビュー組は違うなと。そして衣装をよく見ると、あれ黒帯だな……黒帯だよな………? って。
・ずっと聞きたかった『秘密のトワレ』。めっちゃ良かったです。ああ、志希はこの曲をこうやって歌うんだなあと。
・『青の一番星』の羽衣小町。衣装的にもバランスが取れていてビジュアル的に映えるなあと。そしてりっか様は先輩としての自覚なのか、ちょっと今までと違う覚悟みたいなのが見えたのが良かったです。最後まで紗枝はんを表現しきろうとする気迫みたいなものが見えた。
・『き・ま・ぐ・れ☆Cafe au lait! 』、ルーブル美術館? を舞台に銃器を持ってきた軍曹を早苗さんが追っかける劇団フレデリカが展開されてて面白かったです。高野さんはキャラに寄せているのかキャラに寄っていっているのか、そこかしこに凄くフレデリカを感じる。
・『Bloody Festa』に『Lunatic Show』。カッコ可愛いメタルな小梅を見せてくれた桜咲さん良かったけど頭を振っていたらあまりステージを見れていないという。
・『Radio Happy』『気持ちいいよね 一等賞!』『Can't Stop!! 』の流れは最高に盛り上がった。『Radio Happy』は絶対ライブでやったら最高だと思っていた期待通りのパフォーマンスでとても良かったです。とりあえずサイリウムは投げ捨てて、途中のクラップからのNANANANANAのシンガロングが最高に気持ち良い。あとこのサビは絶対周りを気にせずに飛び跳ねるものだと思うので、いつか野外フェスみたいなところで披露して欲しいです。
『気持ちいいよね 一等賞!』は応援歌なんだよなあそりゃ楽しいよなあと、『Can't Stop!! 』はもう踊るしか無いでしょ扇子振っちゃうでしょこれっていう。
・『ミラクルテレパシー』、堀裕子役の鈴木絵理という人の醸し出す天然のアホっぽさはまさにユッコという感じで、今回衣装がオリジナルになったこともあってユッコ度が更に凄かったです。相変わらず楽しい曲なんですがその後のサイキック召喚で……。
・まあ流石にここまでくると、竹達さんは何らかの事情があって(事務所とか)、アイマスのラジオやライブはNGなんじゃないかと思っていた訳ですよ。だからイントロかかった瞬間も聞き覚えのある曲だけどこんな曲今回あったっけ? と思ったし、せり上がってきた時もあの衣装いたっけ? 誰だっけ? と思っていたし、モニタに「To my darling… 竹達彩奈」の表示が出た瞬間に!!?? ですよ。会場も戸惑いどよめき大爆発みたいな反応で、熱狂度合いが凄かったです。
・3rdを踏襲する『Absolute Nine』『Hotel Moonside』『in fact』の流れ。正直あれにもう一度勝負を挑むの? って思ったのですが『Hotel Moonside』、それはハードルが高いんじゃ……からの見誤っていましたすいませんでしたっていう。パフォーマンス、演出、素晴らしかったです。ちょっと一線を画すレベル。飯田さんも前回より硬さが取れて素晴らしいし、脇を固める2人も非常に良くそして3rdの震えて消え入りそうになりながら必死に立って歌うありすから、しっかりとステージに立って気持ちを込めて歌うありすへと、一年分の成長を表現しきった『in fact』でした。良かった。
・『あいくるしい』オリジナルメンバー! 牧野さんのままゆ、ゾワッとさせる情念が垣間見えるの素晴らしいです。
・『生存本能ヴァルキュリア』の盛り上がりも、LiPPSの『Tulip』も素晴らしかったですが、『純情Midnight伝説 』の炎陣は本当に良いなと。デレステは色々なユニットを生み出しましたが、その中でも図抜けていると思います。このメンバーが揃えば炎陣の世界にできる、空気を変えられる、そういうチーム。中でも頭を張る原優子という人のパワーは逸材だと思います。あの人がいれば軸ができる、あの人の背中についていけば大丈夫、そう思わせる立ち居振る舞いは流石向井拓海の中の人だと。
・るるもやすきよさんも生えてこなかったんで油断してたんですよ本当に。なんか真ん中のリフトが下がったんですよ。なのに麻夏さんとなっぴーが両側から登場したんですよ。『ハイファイ☆デイズ』ですよ。サプライズはもうないんじゃなかったっけあっれーって。あっれーってなってたら仁奈ちゃん! の声と共に久野美咲が、久野美咲が……。いやもう「久野ちゃーーーーーん」って叫ぶしか無いでしょ。で薫ちゃんにしか見えないなっぴーと、成長した千枝ちゃんみたいな麻夏さんがいる訳ですよ。有り体に言ってやばい。語彙力が失われる。そして『みんなのきもち』。わんわんでぱおぱおでぴょんぴょんでうっききーなSSAシンデレラ動物園でした。歌っても喋っても常時仁奈ちゃんの声が寸分違わず出てくる久野ちゃん半端ないです。MCでは今日は保護者いないけど大丈夫かなと思ってました久野ちゃん。
・そしてアニメを超えてシンデレラにおいてこういう立ち位置の曲になったんだという『GOIN'!!!』からラスト『お願い!シンデレラ 』。そうだよ誰もがシンデレラなんだよ。誰が出てもシンデレラなんだよ。そして私だけじゃ始まらないんだよ。このメンバーでこの曲を歌えることにシンデレラガールズの意味があるんだよって何かを噛み締めていました。このSSA1日目が成功して良かった。本当に良かった。


<2日目>
・冒頭の『Star!! 』『Shine!!! 』『STORY』とはっしーの衣装がかわいいと思ってみてました。ニュージェネ+卯月衣装。かわいい。
・問答無用で上げていく『LET'S GO HAPPY!!』。とにかく盛り上がる、のじょさんお腹出してる、とにかく盛り上がる。
・『Memories、アニメでの披露もあんな形だったし、ライブでは揃わないしだった2人が揃って、LOVE LAICAのロゴが後ろの液晶に映る中踊っているもうそれだけで感慨深くて……。ラブライカって尊いんだなって思い出しました。「ミナミィ、ニエェェット」って言ってる二次創作イメージが強すぎた。そしてラスサビで蘭子登場。ラブランコ。
そこからの『-LEGNE- 仇なす剣 光の旋律』は蘭子ができるのは内田真礼だけだし、内田真礼は蘭子なんだと1stぶりに思い知らされました。完全に蘭子だった。凄かった。
・私『Nebula Sky』好きなんですよ。アーニャの決意の歌という感じで。だからまず聞けてよかった。そして2階テラスで歌うすみぺと背景に広がる星空の演出が美しかったです。良いもの見たなあと。
・オリジナルメンバー『Wonder goes on!!』。そうかこんなに盛り上がる曲だったんだと3rdのときも思った気がしますが、今回も思いました良かったです。
やすきよさんめっちゃカッコよかったです。前回は緊張が見えたけど、今回は余裕が見えて、それが夏樹らしいカッコよさに繋がってて素晴らしかった。『Rockin' Emotion』も良かったですが、『 ØωØver!!』の歌い出しを夏樹が歌ったのが最高にカッコよくて、ああこの曲ロックだったんだなって思いました。
・『Trancing Pulse』の3人揃ったフルバージョンを聞くのは初めてですが、とにかく圧が凄かった。一番攻めている時の上松サウンドに万感の思いが込められた歌がのって、3rdの忘れ物を今まさに拾いに行っているんだなあと。
・そして『Trancing Pulse』の余韻を味わう時間も与えずに、鳴り響く荘厳なイントロ。『こいかぜ』。前日のサプライズで十中八九くる予想は立っていたのですが、それでもこの人が出てくるとちょっと空気が違います。1stの時も群を抜いて上手かった歌は、ソロデビューを経てちょっと別次元の領域に。毎度歌を聞いてしまうとなんで声優やっているんだろうと不思議になる早見沙織という人が、演者早見沙織として高垣楓を顕現させている感じが凄かったです。ラスサビで照明が明るくなったところは最早神々しさすらあったことに、346プロNo.1アイドル高垣楓の姿を見ました。あとこの人MCで喋ってても大体楓さんだよねっていう。
・『こいかぜ』だけでも満腹だったところに、『Nocturne』のイントロが流れて東山奈央がせり上がってきて、私は崩れ落ちました。まさかのオリジナルメンバー。絶対聞けないんじゃないかと思っていたオリジナルメンバー。圧倒的な早見沙織の歌唱力と、絶対に川島瑞樹を崩さない東山奈央の役者魂。良いもの見ました。
 このあと武内Pが出てきてのMCで、これがうちのアイドルですと若干のドヤ感を漂わせていた武内くんもいい味出してたと思います。あと楓さん呼び捨てな!
・3rdを踏襲しながら、『S(mil)ing!』にいかなかったりする辺りにアニメ後を感じるセトリですが、その中でも『流れ星キセキ』どんな場面で聞いてもエモいです。背景の映像がまた良くて、黄色い星が青い星と二つに、ピンクの星で三つにとなっていくのがやはりエモい。
そしてアニメの締めくくりは『M@GIC☆』へと。 この曲はライブで聞くたびに名曲だなあと思うようになっていきます。これも最高にエモい。
・アニメを振り返るムービーが流れる中、BGMの『GOIN'!!!』にPたちが合唱しコールを入れる様がなんか一種異様な空気があって凄かったです。ああ、宗教だって。
・大坪社長のせいで武内くんが4つ目のお城といったときマッスルキャッスルか!? って思っのは置いておいて、『Future Castle』開幕。ここからはいつものメンバーの新たな第一歩。心機一転の初々しさもありつつ、成長を感じさせるのが良かったです。
・『SUPERLOVE☆』はのじょさんの全力をぶつけてきてる感じ凄かった。『Sparkling Girl』はりーなが……ロックをしている……という感慨。あとこの曲楽しいです。『ニャンと☆スペクタクル』も楽しい曲ですが、それ以上にこんなに楽しそうななつ姉めった見ないなあと思っていました。
・『おかしな国のおかし屋さん』。最初から最後までストーリー仕立ての楽曲、やたらと多い小道具と演出、歌の合間に入る台詞、そして登場する王子(上坂すみれ)。なんか既視感あるなと思ったけどこれサンホラの手法だわ……って思ってました。ライブ後に友人が、こういう曲はそれをどうステージにしてくるか楽しみになるって言っていて、うんそれやっぱりサンホラだって思いました。
 そしてこの仕立てを成立させる大坪由佳の存在感というか説得力というか。決して歌が上手いわけでも踊りが上手いわけでもないのですが、大坪由佳であることが上手いという感じで、本当にオンリーワンだと思います。
・あああああはっしーかわいいんじゃあああああと思っていたら『はにかみdays』が終わっていた。このあとの全員曲でも基本ずっとはっしーを目で追っていたのでそろそろ重症。でも、ともよ様が馬車から爆レスしてたのは見てた。
・前日のライブ後に歌詞がやばいよと言われていたので『EVERMORE』は歌詞に耳を傾けていたんですが、ちょっと本当にヤバくてサイリウムを降る動きも止まりますよねこれ。シンデレラ……まぎれもなくシンデレラの曲だこれって。あと最後のMCで初めてのステージを振り返ってSSAだったって言うメンバーが多くて、それ見に行ったわ……あの時からここまで………みたいな感慨に襲われていました。

Dimension W 11 / 岩原裕二

新章開始ということで、ミラと彼女を残した百合崎教授の謎、そしてシンジケートという新たな敵が出てくるのですが、そんな話の主人公格となっているのがルーザーとともに行動してきた少女エリー。番号のみを与えられていた施設から一人逃げ出した少女とすべてを奪われて一人になった男がどのように出会いどうして一緒にいたのか、そしてルーザーを失ってまた一人になったエリーが回収屋としてどう生きていくのかが描かれていきます。
いやなんというか、私こういうキャラめっちゃ好きです。ルーザー亡き後1人でもやっていけると意地を張って強がってプライドが高くって、ピーキーなくらいに優秀だから実際ある程度のことはできちゃうけれど、結局まだ未熟で脆い。このアンバランスさと頑なさが凄くツボです。ミラを取り戻そうと1人で敵のアジトに突入して、敵の強さに上手くいかずにボロボロになって、それでもミラが捕らえられた部屋までたどり着いて、もう誰もいなくなっていて涙目になってるのとか良い。本質的には良い子なのが良い。
人の心を知ろうと積極的に話しかけているミラはもちろん、キョーマもなんだかんだ言ってこういうタイプの子は放っておけないんじゃないかなあと思うので、なんとか誰かがまた彼女の隣に立てる日が来るといいなあと思います。救われて欲しいなどと言ったら怒られそうではありますが、何かが出自からの因縁もありそうな彼女の救いになってくれたならと思う一冊でした。

恋は光 5 / 秋★枝

恋は光 5 (ヤングジャンプコミックス)

恋は光 5 (ヤングジャンプコミックス)

ずっと愛おしくも何だか面倒くさい人たちだなあとこの恋模様を見ていたのですけど、ここにきてぐっと踏み込んできたというか、核心に迫ってきたという感じ。なるほどあの迂遠さは、恋をテーマにずっと置きながら誰もその中心に触れようとしなかったからなんだろうなあと。
それがこの巻では、宿木さんの恋愛テクニックだとか、北代さんの処世術だとか、東雲さんの理屈が先行するところとか、そういうそれぞれが作っていた壁が破れたり破ったりして、そこに触れようとしているという感じがありました。そうなってくるとやっぱり一気に感情が流れていく訳でそれが凄い。宿木さんの西条に本気であるが故に手練手管でどうにもできなくなっていく行き詰まり方とか、いやなんかもう秋★枝作品やっぱり良いなあと思いました。あと北代さんが相変わらず切ない。「私じゃダメかい?」ってどれだけの覚悟があったのかと! それなのに!
そして、もうひとりの光が見える人として登場した女子高生の方はなんだか別の百合マンガが始まっていてこちらも目が離せない展開に。母からの一方的で過剰な愛情が嫌になっていた彼女は、人気があるけど好きになられても他人に興味ないという先輩に余計に惹かれていきという話なのですが、そんな彼女が先輩に向ける愛がまさに無償の悪意ない重い愛情で、それって母親に向けられてるのと同種だよ……! っていう。
そんなこんなでクライマックスが近づいてきている感じの杜が上がり方をしてきた巻。それぞれの恋模様に、どうも無償の愛っぽいものの感じのしてきた光の謎も含め、続きが楽しみです。

りゅうおうのおしごと! 4 / 白鳥士郎

りゅうおうのおしごと!4 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと!4 (GA文庫)

そうだ。みんな見てくれ。
寒気がするほど愛しい俺の弟子を。
魂が震えるほど熱い、俺の弟子を!!

いや本当にゾクゾクする熱さでした。
将棋が分かればもっと面白いだろうとは思うのですが、将棋の中身がわからなくてもやっぱり面白いこのシリーズ。それはやっぱりこの作品が、勝負の世界とそこに生きる人たちの物語であり、師弟愛の物語だからだと思います。
マイナビ女子オープンというプロアマ混合の最大の女流棋戦で、あいが天衣が、そして桂香がどう闘うのか。それぞれの物語がそれぞれに熱く、中でもやっぱりあいvs祭神の一戦が凄かったです。初めての大きな大会で存分に見せつけられてきた、この幼い才能がどれほどのものか。破格の才能を持つ異端者と対等に張り合う姿の凄み。いやなんというか、このシリーズを読んでいて初めてあいが怖いと思いました。そして明らかになる、彼女が何のためにそこまで勝負に徹して頑張ってきたのか。本当に勝負に熱く、人の繋がりで泣かせる物語だなあと思います。
それからそんな若く大きな才能とは対極にある、前の巻から続く桂香さんの最後のあがき。自分より実力のある人に当たり続けてボロボロで、この先の見通しなんかなくて、それでも降りる訳にはいかない。厳しい勝負の世界の土俵際で、かつての仲間の振り落としながらももがく姿もまた苦しくも熱いものがありました。
そして対戦相手になる他のキャラクターたちも、濃いけれどその生き様が印象的な人たちばかりで。特に、解説などでアイドル的な人気を誇る女流棋士である鹿路庭さんが、どうして研究会クラッシャーとまで言われるようになったのか、読んでいての想像を鮮やかに裏切られる天衣戦も良かったです。ああ、この人も才能と実力というものが残酷に存在する世界の中で、将棋に魅入られた勝負師なんだなあと。
そして、あいたちの物語を描くのであれば、その舞台となる女流棋士の世界に触れないわけにはいかず。それを語る女流名跡の『晒し者』という言葉が、女性への将棋普及のために設けられ、奨励会員やアマチュア強豪よりも弱いことがある女流棋士の立ち位置を示しながら、だからこそ持つべきプライドが語られ、それと相反する存在としての祭神にこれから羽ばたこうとしているあいが対局するというこのドラマがまた。
話が広がって主役級が増える分少し散らかった印象があったり、相変わらずコメディパートがロリコン竜王とJS研ネタに偏り過ぎじゃないかと思ったりもするのですが、そんなことはどうでも良くなるような熱い闘いを見せてくれた一冊。次の巻はついに八一の正念場。愛弟子のこんな姿を見せられて、無様な姿は見せられないだろうと期待しています。
それから、もちろん将棋と弟子が最優先なのはわかりつつも、八一はもう少し姉弟子に気を向けてあげた方が……。だんだん読んでいて可哀想になってきたんですが。

アイドルマスターシンデレラガールズ WILD WIND GIRL 1 / バンダイナムコエンターテインメント・迫ミサキ

アイドルマスター月刊少年チャンピオンという異文化の大陸を暴走族アイドル向井拓海が橋渡しした鬼子みたいな作品なのですが、これがどうしてド王道を行く物語になっていて面白いです。ヤンキーとアイドルってもしかして非常に親和性が高いのでは。というか大体似たようなものなのでは。
時代錯誤な暴走族の特攻隊長をやっていた拓海が子猫絡みというまたベタなあれでひょんなことから関わることになったアイドルの世界。最初はアイドルの世界をヒラヒラチャラチャラした格好をして、変なことして笑いものになるような仕事だとバカにしていた拓海ですが、穴埋めで参加した最初の仕事でステージサイドから見たライブの熱量が忘れられず、プロデューサーの挑発にも血の気の多い性格からまんまとのっかり、そのままずるずると仕事をするような形に。ただ、それもどこか中途半端というか、同僚アイドルの仕事潰した分のケツ持ちだとかなんやかんや理由をつけていつでも手を抜けるような姿勢で。
けれど、同僚の藤本里奈の前向きな姿勢だったり、一緒に仕事した年少アイドル組のプロの仕事だったり、そういうものを見たところに、プロデューサーから逃げるのかと煽られ、走ることは楽しいけれどその先にやりたいことがあるわけでなかった拓海がアイドルとして天下とったると腹を決めるところまでがこの巻。まさに王道というか何というか。
どう見てもチンピラでクズなんだけど割とやるときゃやるっぽいPと、喧嘩っ早く血の気が多いアイドルの組み合わせは、顔を合わせば怒鳴りあうわ拓海の方がすぐに手を出すわでアイドルとはみたいな気分にもなりますが、これがまた中々いいコンビでそういう面でもこれからに期待。あと土方系ギャルアイドルというデレマス本当になんでもありだなの実例の1人な藤本里奈がこんなに良いキャラしていたのかとびっくりしました。もはやギャル言葉ですら無いあの口調でゆるゆるそうに見えて自分は頭悪いと言いながらも、自分のやりたいこと、そのために必要なこと、やられたくないことに対してしっかり芯があって裏表なく前向きっていうのはなかなか格好いいなと思いました。
そんな感じに、塩梅良くオラついた感じがとても読んでいて気持ち良いものがあるマンガでした。意外というか必然というか、なんやかんや生まれるべくして生まれた、みたいな感じ。これは次巻も楽しみです。

東京レイヴンズ EX4 / あざの耕平

ブルーレイ特典だった大友と鈴鹿の話に、十二神将たちそれぞれの掌編を加えた短編集。
鈴鹿の話である「lost-girl with cat」は本当に好きで鈴鹿の魅力がよく出た話だったと思うので、こうやって短編集に収録されて良かったです。そして大友の話も片足を失った黒子時代の最後、最初の芦屋道満戦というまた美味しい話を特典につけていたのだなあと。
他の十二神将たちの物語も掌編ながらそれぞれの個性や魅力がきっちり出ていて、本編ではメインどころには来ない彼ら彼女らですが、それぞれに主役級のポテンシャルを持っているのだなと思いました。本編だけでも今大変なことになっているところではありますが、こんなものを読まされたら、十二神将のスピンオフももっと書いてくれないかな、でも本編の続きも早く読みたいなと贅沢な希望を抱きたくなるゆな一冊でした。良いものだった。

スペース金融道 / 宮内悠介

スペース金融道

スペース金融道

人類が最初に移住に成功した惑星である二番街を舞台に、審査は緩いが金利は高いヤミ金業者の二人組が主にアンドロイドの債権者を「宇宙だろうと深海だろうと核融合炉内だろうと零下190度の惑星だろうと」取り立てるSFコメディ連作短編。
量子経済学やなんやの経済理論にアンドロイドや人あらぬものたちと人類の共生といった何だか難しげなSF要素もありつつ、ぶっ飛んだアイデアと斜め上の展開とぼくと上司であるユーセフの関係の面白さがコメディしていて楽しい一冊でした。まあ、小難しいところは賢い人の考えることはようわからんと思って読んでいれば、主人公であるぼくもさっぱりわからんと反応してくれるので問題ない……はず。まあ、たいていその後にユーセフに馬鹿にされ扱き下ろされるわけですが。
取り立てのためならその無闇に高いスペックを使ってなんだってするユーセフが、命の危険も迷惑ごともガンガンぼくに投げつけつつ前に進んでいくのですが、たまに優しさを見せるような、見せないような、抱えた過去の傷を見せるような、見せないようなその絶妙なバランスと。罵倒されひどい目にあい文句を言いながら、なんだかんだでユーセフを信頼してるような気がしなくもないぼくの関係も良かったです。意外とちゃっかりしていたり、その割に面倒事にあっていたり、自己評価高くないけどなんだかんだとんでもない能力持ってるよねというところだったり、破茶目茶なのに嫌な感じがなくて良い感じ。
投げ込まれる経済とアンドロイドとなんかそれ以外のアイデアの数々は、斜め上へと展開を持っていくのですが、ただとにかく勢いでというよりはしっかり計算された上で斜め上へ伸びているといった印象。それにしたってコンピュータ内の人工生命への金の貸付からその世界にダイブした上で最後は地獄に向かったり、アンドロイドたちのカジノ船で紙切れ(保証がないほど金融商品としては良い……らしい)で作った新通貨で経済的狂乱を巻き起こしたり、寄生虫に脳内で話しかけられてたらナノマシンで世界の危機だったりとなかなかぶっ飛んだ話ばかりだったと思います。でもこの作者が書くと何か凄く頭のいい、高尚っぽい雰囲気を受けるのは単に私が馬鹿なのか。
あとは、アンドロイド関連の話に感じる、人間に対する信頼というか愛着というか、なにか断ち切れない感傷みたいなものが印象的でした。合理性に偏らないための経験主義原則。アンドロイドの無意識として位置づけられた、人間のネットワーク。そこに接続を許されないアンドロイドたちの暗黒網。突き詰めて突き詰めていくことへのブレーキと、突き詰めきった先に何があるのかは、ユーセフの金融への考え方もアンドロイドの理想もオーバーラップする部分があって。最後の「スペース決算期」でのゲベイェフの辿った結末は、その辺りも相まって良い悪いではなくて、なにかすごくセンチメンタルなものを感じました。
その一編は特に顕著ではありましたが、作品全体としても荒唐無稽やことをやる中で、そういう質感というか手触りがちょくちょくと顔を出す、そういうところが特徴的な一冊だったと思います。