ディメンションW 12 / 岩原裕二

 

 一気に話のスケールが大きくなって最終章という感じがしてきた12巻。丸々残っていた形のミラの二重コイルと百合崎博士の関する謎が、シンジケートとニューテスラ、そして次元Wにこう繋がってくるのかと。まあ、よくよく考えれば無尽蔵の資源なんてそんな都合の良いものは無いよなあと。

そしてミラがどんどん人間らしくなっているのもあり、キョーマがミラをロボット扱いしないのがとても良いです。人間として扱っているのかは分からないものの、あのコイル嫌いがミラを自分自身の自由意志を持つ存在として扱っているのは感慨深いです。そしてちゃんとエリーを拾っているキョーマはやっぱりなんだかんだ面倒見がいいなあと。

全般ちょっと説明多めの巻でしたがそれを感じさせない上手さあり、そしてこの先への下地はバッチリという感じで、ここからの展開が非常に楽しみです。前の巻でのシンジケートとの力の差を見ると、あまり明るい未来が見えないのは心配ですが……。

恋は光 6 / 秋★枝

 

恋は光 6 (ヤングジャンプコミックス)

恋は光 6 (ヤングジャンプコミックス)

 

 表紙を見て「おや?」とは思ったのですが、まさかそこからこういう爆弾が降ってくるとは!

この作品の人間関係って、東雲みたいなタイプがいる割にぬるま湯的というか、あの交換ノートもそうですが、同じ男を好きだと分かっている3人の友人関係だったり、西条と北代の腐れ縁的な繋がりだったり、一歩手前の心地よさみたいなものがあって、それがとても好きだったのですが。

そりゃあまあ、長くは続かないだろうということを匂わせ始めたところでなにかあるとは思っていましたが、「光」って結局恋を示しているのかどうかすら分からないのにうっかり読者としても信じすぎていたなあと。そして、もう一人のJKはここの人間関係に絡んでくるのではなくて、そういう役回りか騙された! みたいな。

いやもうドラクエⅤはビアンカでしょ的なレベルで、幼馴染北代報われろ派としては願ってもない展開だとは思うのです。思うのですが、ちょっとあまりに爆弾すぎるというか、もう少しソフトランディングさせてくれないと大分危ういというか、これまでがぬるま湯だった分だけ、この関係、相当酷いことになりそうでちょっと心配です。これまで彼ら彼女らを見てきていると、皆幸せになってほしいなあ、と。

空電ノイズの姫君 1 / 冬目景

 

 ちょっと天然気味で子供っぽさの残るギター少女。ワケありな転校生の黒髪ロング少女。くすぶっているモラトリアムなバンド青年。これまで多かった美術ではなく、音楽をテーマにした変わり者たちの青春模様は、これぞ冬目作品な魅力にあふれていました。羊のうたではなくてイエスタデイをうたって系統の冬目景の美味しいところ盛り盛りでちょっとこれは素晴らしい。

磨音と夜祈子の間に生まれてくる友情も、磨音が中心を失ったバンドから求められるお話も、どちらもまだ始まったばかりという感じで交わりませんし、夜祈子の抱えた事情についてもこれからという感じで導入の1巻。ですが、今この時点でも面白いのだからこれはきっとこの先も間違いなく面白いと思える一冊でした。

あと、ベタですけど磨音がギターを弾く時に髪をバサッと解くのが良いなあと。マンガなので当然音はないし、この作品は演奏シーンで擬音もないのですが、ビジュアル的にはもちろん、音まで含めた躍動感が感じられて好きです。

クロックワーク・プラネット 1 / 榎宮祐・暇奈椿

 

クロックワーク・プラネット1 (講談社ラノベ文庫)
 

アニメが始まったということで積読の山から引き出して来たのですけど、おっもしろいなこれ!

榎宮祐はグリパケ、ノゲノラと面白いけれど合わなくて途中で脱落してしまっていたので避けていたところはあったのですが、合うとか合わないとか些細なこと言わずに読まんかいと引っ叩かれるような一冊でした。

まず、寿命を迎え滅びに向かっていた地球を、何者かが全てを歯車に置き換えることで救ったという大ハッタリから入る導入からワクワクするのですが、その歯車の世界で展開される2人の天才の物語がとても面白かったです。

大人の理屈だとか、必要な犠牲だとか、権力争いだとか、そういう社会のしがらみを突き抜けるのは子供の理想と天才性。そして、手にしたリューズという破格の力を持つ自動人形。それが本当に正しいことかなんてものは関係なく、それが正しいと思うから行動し、そして彼らにはその力があった。例えばノゲノラなんかも同じような話ですが、あれはそういう存在こそが正しい世界が舞台にあった訳で、それをある程度普通の社会でやったら、そりゃあ辿り着くところは理想を叫ぶテロリストよねというところまで徹底していて、ここまでくるともう痛快です。

そしてこの物語、あとがきでも言及されている通り二人のタイプの違う天才が出てくるのが面白いです。傲岸不遜で口の悪い凄腕時計技師の少女マリーは1%のひらめきと99%の努力を地で行くような天才タイプで、他はさっぱりでも超能力めいた聴覚を持つナオトは天才というよりはもはや異能というタイプ。そしてこの2人が反目しつつもがっちり噛み合って、一人では為せないことを為すというのが王道ながらに最高でした。ちなみにマリーが私の好きなタイプのキャラにぴったりハマりすぎて困る。

そんな感じに面白かったのでこれは続きも読まねばと思います。

ストライクフォール 2 / 長谷敏司

 

ストライクフォール2 (ガガガ文庫)

ストライクフォール2 (ガガガ文庫)

 

 戦争の祭儀(スポーツ)化というのは、なんだか最近けものフレンズで見たような気がしたりしなかったりなのですが、戦争から派生したスポーツが、それでもなお最先端技術の実験場であり続けていたら、というお話。

1巻から匂わされながら、双子の兄弟と幼馴染の関係、そしてスポーツとしてのストライクフォールに焦点があてられていたことで表には出てこなかった、ロボットで編隊を組んで撃ち合い殴り合うという、ほぼそのまま戦争をスポーツ化したストライクフォールにおいて、慣性制御という技術を生み出したことがどういう意味を持つのか。競技自体が軍直系の流れを組むだけに、例えばモータースポーツのように企業の最先端技術の実験室では済まないそれが、雄星が起こした入れ替わりの事件以上に重い意味を持ってくるということを、嫌でも目の当たりにする2巻。宇宙をまたいだ軍事、政治、商業、民衆、そりゃあ長谷敏司作品が単純にスポーツもので終わる訳はないと思いましたが、ここまでの射程と深さを持ってこのストライクフォールというシリーズはあるのだなと思いました。

この作品世界において、重力制御がかつて地球と宇宙圏の関係を大きく変える技術であったように、慣性制御というものがどれだけ大きなイノベーションで、パラダイムシフトを引き起こすような代物であるか。それがストライクフォールに全く新しい才能が必要となる、全く新しいパワーの時代をもたらすと同時に、全宇宙のパワーバランスをどれだけ書き換えて、ひいては人々の生活を良くも悪くもどれだけ変えうるのか。この二つの軸が同時に描かれて、それがこの巻のラストの試合へと繋がっていくのですが、あくまでも競技としてのストライクフォールに己のすべてを掛ける雄星やアデーレ、ブラバッキー監督のような存在と、レイカの立ち位置レベルでの噛み合わなさに、どちらも理解はできるだけにやるせなさを感じます。

正直、戦争はすぐそこまで迫っている、どうにも良い未来は待っていなさそうに感じるのですが、最悪のスキャンダルと英雄化された弟、慣性制御という新しい時代の技術、これだけの物語を背負った鷹森雄星という1選手が、スポーツの起こせる奇跡を信じて、スポーツとしての論理を叫ぶことで、何か別の未来を見せてくれるんじゃないかという期待も込めて、続きを楽しみにしていたいと思います。

西沢幸奏 1st LIVE "Break Your Fate" 4/30 @ 赤坂BLITZ

 

Break Your Fate (DVD付初回限定盤)

Break Your Fate (DVD付初回限定盤)

 

最初に西沢幸奏いいなと思ったのはニコ生のリスアニSTUDIOで「吹雪」を歌ってるのを見た時で、デビュー直後、あの歳での堂々とした歌いっぷりと良く伸びる歌声にこれは才能だと思った記憶があります。それから秋葉原のフリーライブだとか、アニサマANIMAX MUSIXと見てきて、正直早く1stアルバムを、早く1stライブをと思うところはあったのですが、1stアルバムとこの1stライブを見て、この2年間は必要な時間だったのだなと。

2ndシングルでギターを手にしてロック方面に方向性を求めて、ギターを掻き鳴らしてのライブパフォーマンス、そしてANIMAX MUSIX OSAKAでの吹っ切れたような煽りがあって、その流れを総括するような1stアルバムの完成度。1曲目の「Break Your Fate」から「Shark」「Gemini」の流れ、これはライブでそのまま来たらヤバいと思っていましたが、いや本当にヤバかった。赤いライトにサイレンが鳴り響いた開幕からこの3曲が叩き込まれ、ノリは完全にロックバンドの現場で、前方は滅茶苦茶なモッシュになる中で幸奏がめっちゃ煽って、もうこんなのブチ上がる以外の語彙力を失いますよね……。

1stライブってそのアーティストにとって名刺代わりになる、自らがどういうものかを示すものだと思うのですが、デビューからの時間の中で掴んできたものだとか、選んできた道だとか、成長だとか、そういうものが全部準備できて、さあここでぶちかましてやるんだという気持ちの見えるライブでとても良かったです。あの小さな身体で客を煽ってギターを掻き鳴らして、しっかりした歌声が感情を乗せて良く伸びる、曲ももちろんですが、絵になるな、カッコいいなと思いました。それから、最初のMCでデビューから2年、「夢は叶うんだ!」と叫んだ時点でなんかもうエモすぎた。

ただやっぱり1stライブということもあって、まだまだ伸びしろはあるんだろうなとは感じました。フェスで2、3曲に全力を出す時のびっくりするような完成度を見ているだけに、フルライブでは常にそのゾーンまでは届かないというか、隙が多く感じるというか。でも、そういう部分も含めて最高の1stだったなと。だってキャパ200レベルの箱を全国10箇所以上回るツアーをいきなり組んだってことは、フライングドッグは西沢幸奏をライブアーティストとしてこの路線で叩き上げるっていう宣言みたいなものだと思うので、つまりは次に関東圏でライブを見る時にはこの伸びしろ分を見られるということで、これほど楽しみなことはないと思います。

盛り上げる展開からしっとりした曲を続けて、最後はまた盛り上がる曲を連発するという流れのライブでしたが、一番印象に残ったのはアンコール前ラストの「Feel This Moment」。会場一体となるシンガロングに、文字通りここにしかない今を刻みつけるような一曲だと感じました。良いライブだった!

ななかさんの印税生活入門 1 / kashmir

 

 マンガ家の両親に幼少期より振り回されてきたななかさんが、両親よりも印税収入を稼いでやると思いたち、なろう的なサイトに小説をアップロードする4コマ漫画。

そんなななかさんと友人と美術部員の3人が、主にラノベだったりなろう系だったりのテンプレ弄りをしているのを基本に、いつものkashmir的なエッセンス(幼女とか妹とか)が振りかけられたものなのですが、ななかさんがどうだこうだ言いながらちゃんと書き上げてアップロードして読者の反応に一喜一憂してるのを見ると、凄く良い青春ものだったような気すらしてきます。

ここがめっちゃ面白い! という訳ではないですが、不思議と良いなという感じのする一冊。何かよくわからないけど好き、みたいな。うん、良かった。