【小説感想】悪魔の孤独と水銀糖の少女 2 / 紅玉いづき

 

悪魔の孤独と水銀糖の少女II (電撃文庫)

悪魔の孤独と水銀糖の少女II (電撃文庫)

 

 最大のポイントは、あとがきでも語られている通り、物語の続きが描かれたということなのだと思います。

呪われた島で出会った悪魔を背負う男と愛玩人形の少女の物語は綺麗に終わっていて、たとえ最後まで逃げ続けるとしても、時代の流れに消えゆく異端である2人の行方は誰も知らないでも美しかったと思うのです。それでも、島を出た先の彼と彼女の物語は描かれなければならなかった。

そう思って読んで見れば、だってヨクサルとシュガーリアがそんな美しい滅びを選ぶ訳がないだなんて分かっていたことじゃないかという気がしてくるから不思議で。

愛される人形である少女として、愛させる人形である少女として、いつかの日まで逃げ続けるのではない。お互いへの感情を何度も重ねていくことで、その関係は、その在り方は形を変えて行く。それはまさに未来を描くということであり、つまりは生きるということの物語だったのだと思います。

そしてそこで描かれるのが、これまでの愛にまつわる話から、恋することの物語になっていくというのが、普通に生きることから外れた者たちのはずなのに、確かに生身の感触があって。観念でもない、幻想ではない、今ここに生きる、最後まで生きるというのが、この2人が選び取ったものであり、だからこの物語は書かれなければならなかったのだと感じました。

あと、やっぱりシュガーリアの、こう、色々なものを煮詰めたような感じが好きだなと。名乗りを上げるシーンは最高に格好良かったです。

【小説感想】安達としまむら 8 / 入間人間

安達としまむら8 (電撃文庫)

安達としまむら8 (電撃文庫)

 

 まずは、約2年半ぶりの新刊ありがとうございます。いやほんと打ち切られたと思ってたからね……やっぱ電撃で百合は難しかったのかと。それがTVアニメ化の吉報付きで出るんだから世の中捨てたもんじゃないと思いました。あと、ありがとうやがて君になる

内容的には前巻で付き合い始めた安達としまむらの修学旅行編。でも、相変わらず周りなんか見えていない、しまむらしか見えない安達と、付き合い始めてなお君は相変わらずだなというしまむらの二人の関係が続いています。しまむらの一人称で語られる「安達は1人では生きられないけど2人でなら生きられる」「私は1人ぼっちでは生きられるけど2人で生きるのは難しい。実感を得るには沢山の人が必要だ」が的確に本質をついていて、そこまで分かっていてあなた何なのしまむらさんという感じ。

そして相変わらず関係性とか感触の描写が大変上手いので、要所に切り込んでくる表現があって強いなあと思います。5人の班で、しまむらのことしか見ていない安達と、残り3人の班員の間に流れる、険悪ではないけれど距離感のある空気とか本当に。

そしてそんな中で、その班員としまむらの会話で告げられる、第三者から見たしまむらと安達の姿がこの巻最高の切れ味。「人に興味がないように見えるけど、そんな人が一緒にいるんだからよっぽど気に入ってる」は言われたらその通りなんだけれど、あまりに感情がフラットなしまむらの一人称を読んできたもんだから、不意打ち気味に突き刺さるものがありました。

いやなんというか、それでもしまむらしまむらなんだけど、それはプロローグ&エピローグ的に挿入される未来の話でもそうなのだけど、やっぱりその認識は大きいと思うのです。冷静に自分が見えてるようで見えていないところに自覚が与えられた感じが、間違いなく何かが進んだ感じがして、やっぱり安達としまむらは最高だなって気持ちになる一冊でした。

アニメ化、この一人称で表現していく作品をというのは難しいと思うのだけど、とても楽しみです。

【小説感想】少女文学 第一号

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5/12のCOMITIAで頒布された「少女小説」をテーマにした同人誌。

私は「少女小説」というジャンルに触れてはこなかったので、ここで『あなたが愛した「少女小説」』というテーマで書かれている作品を読んでも、正直分からない部分はあるし、こんなに色々なタイプの作品があったのだなあと思うくらいしかできません。

でも、誰かにとってそれが何であったのか、それを書き手の側から書いたのが紅玉いづき「ぺぺ、あなたの小説を読ませて。」であり、読み手の側から書いたのが七木香枝「あなたと彼女たちについて」なのだろうと。

出会った「神様」や「彼女たち」。長く人生と共にあり、あるいは人生そのものとなったそれ。福音であり、ある意味では呪いのような、そういう言葉でくくること自体が野暮なのかもしれないもの。「ありがとう」と「幸せ」の言葉で結ばれるそれぞれの作品を読んで、なんだか、この本を手にとって良かったなと思いました。

 

それぞれの作品の中では小野上明夜「白き寿ぎ」が、なんとも底意地の悪いというか、素敵に趣味の悪い話で好き。ああこれはもしかしてそういう話なのでは……というところから、やっぱり! と思って読んだ最後に……という仕掛けがとてもひどい(褒め言葉)作品でした。

逆に、ああこれはもうしかしてそういう話なのではという期待から、待ってました! の方向に振れるのが神尾あるみ「アミルと不思議な青い指輪」、木間のどか「ブルージャスミン」。どちらもファンタジーな国の話を背景に、前者は冒険のワクワク感が、後者は恋へのドキドキ感があって良かったです。

それから栗原ちひろ「黄金と骨の王国 ~半竜人と死せる第一王女の章~」は更にもっとがっちりとしたファンタジーという印象。この世界の、もっと色々な話も読んでみたいなと思いました。

【ライブ感想】NO GIRL NO CRY 5/18・19 @ メットライフドーム

 

NO GIRL NO CRY

NO GIRL NO CRY

 


 キャラクターとして声優が演奏もするコンテンツであるPoppin' Partyと、普通にバンドであるSilent Sirenが対バンを、しかもドームでするっていう、ブシロードブシロードらしいところが出た攻めたライブ。どうなるんだろうという不安もあったし、正直席も埋まりきっていなかった(あと音響トラブルも多かった)のですが、いやでもこれが大変良かったです。

タイトル曲に歌われる同志でライバルな関係性と、ひたすらにハッピーなライブ。いいじゃんバンド! 楽しいよねライブ! って多幸感。「ガールズバンド」というバンドリが掲げた大きなテーマに全部がきれいに回収されていった感じ。あと二組のメンバー同士が普通に仲良かったのも良かったです。そしてサイサイのメンバーがオープニングアクトのRASのメンバーを昔から知っていて、みたいな話が、繋がっていくものを感じてすごくグッと来ました。

そしてサイサイは昔CDJで見たときよりも断然ライブがうまくなっていて、どちらかといえばゲスト的な立ち位置だったにも関わらず、とにかく盛り上げていくセトリも相まって観客を完全に掴んでいったのは流石の一言。「フジヤマディスコ」最高に楽しかった。

そしてポピパ。正直私はアニメの2期にもあんまりノれなかったし、ガルパも触っていないのがあって、声優バンドとしてのポピパとして見てはいても、コンテンツ全体を楽しみきれていないところがあったんですね。でも今回「Returns」を聞いててチャンネルが合って、そこからの「キズナミュージック」で完全にやられました。キャラクターとしての物語と、バンドに取り組んだキャストたちの物語がリンクして、あそこで演奏してたのは愛美たちであり、香澄たちだった。そして彼女たちの絆を「大好きな歌」「約束の歌」「永遠の歌」と歌うの、あまりにもエモかった。

ああ、私はリアルとフィクションが交錯して、なにか大きな感情や熱量が生まれる、この瞬間が見たくって、キャストがキャラクターとして舞台に立つコンテンツを追いかけているんだよなと、改めて確認したライブでもありました。良かった。

【小説感想】死神執事のカーテンコール / 栗原ちひろ

 

死神執事のカーテンコール (小学館文庫 Cく 1-1 キャラブン!)

死神執事のカーテンコール (小学館文庫 Cく 1-1 キャラブン!)

 

 自称名探偵の猪目空我が探偵事務所を開くのは古い屋敷の一角。その大家となる謎めいたお嬢様と、彼女に仕える執事を名乗る死神の青年。更には、傍観者を決め込む謎のおじさま。そんな、明らかに人間の比率が低いよね? となるキャラクターたち。

奇妙な彼らの織りなす物語は、探偵だけに謎解きミステリ……かといえばそういう感じではなく、死者たちの人生最後のカーテンコールで心残りが浄化される……みたいなものが主眼ではなく、なんとも一言で表現し難い不思議なお話になっています。コメディという訳ではないけれど、なんだか変な奴らの、だいぶ変な関係が、一周回ってなんか良い感じ! みたいな。

というかイケメンで元子役(探偵)で海外帰りの猪目空我さん。最初はなんだか抜けているけどたまに鋭いタイプなのかなと思って読み進め、途中でああこれは筋肉馬鹿で愛すべきアホの子なんだなと思って読んでいたら、「名探偵と普通の探偵」でこいつはヤバいやつだと。

とにかく善良で鈍感というのが見かけ上の彼の個性なのですが、これそんな生易しいものではないだろと思います。普通の探偵である女が彼の裏を暴こうとするのがこの話なのですが、どんなに掘っても後ろ暗さがないというか、本人が定めた「名探偵」のあり方から、今に至るまでの生き方に、何ひとつの歪みもないのが逆にヤバい。行き過ぎた善良が純化されすぎて逆に狂っているというか、真水は逆に不自然であるみたいな感じ。普通の感覚を持った女探偵との断絶が、深淵の蓋を開けてしまった感があってゾッとします。ここまで正しければ、そりゃあ他者に鈍感にもなろうというか。これで本人は真っ当だと思っていて、いや事実どがつくほどに真っ当なんだから、それはあの人外たちが面白いと気にいる訳だと思います。

そんなこともあり、更には死神とお嬢様との間の執着絡みの話などもあり、一瞬闇を覗き込んだような気配がしながら、最終的にはなんだかなんだ和やかな感じで幕引き。ワケありにも程がある魑魅魍魎たちが楽しそうにしているなら、まあきっと悪くはないだろうと、何か丸め込まれたような気もしつつ、得てして世の幸せはそういうものなんじゃないかなと思わされるような、そんな一冊でした。

【小説感想】閻魔堂沙羅の推理奇譚 落ちる天使の謎 / 木元哉多

 

閻魔堂沙羅の推理奇譚 落ちる天使の謎 (講談社タイガ)

閻魔堂沙羅の推理奇譚 落ちる天使の謎 (講談社タイガ)

 

 高値安定という感じでこの巻も面白かったです。

第1話は、元天才バドミントン選手の事故死の謎。国内バドミントンの発展に尽くした故人である彼女の父親、彼女を取り巻くコーチや今のトップにあたる選手たち、そして才能あふれる小学生選手。そんな人たちに囲まれて、才能に任せて努力をしてこなかった彼女が、ケガを契機に一線を引いた後、どのように過ごして、何を考え、そして殺されるに至ったか。

これがひっかけ問題のような話で、彼女から見た周りの姿や言動に、競技の世界のドロドロとした感情がもたらしたもの、最悪の最悪を想像して読んでいたのですが、実はそういうことだったとは。概ね爽やかで前向きな決着に、悪い想像をした自分の心が汚れてると思わされるような話でした。

そんな1話目があったからどこかで良い話になるかと思えば、ただひたすら小悪党の話だったのが3話目。その人間らしい弱さは分かるけれど、この作品の倫理観は閻魔の倫理観なのでそりゃあバッサリ切られますよねという。

しかしこれ、推理モノとしては変化球すぎるというか、反則ではと思って読み返したら、確かにそういうふうに説明されていたのだけど釈然としないというか、野球盤で消える魔球を使われたみたいな感じでした。いやだって、閻魔周りの設定と現実世界の設定は分けられた上での推理ゲーム……ではないな確かに。そもそも沙羅は現実世界に干渉しまくっているのが描かれてもきた訳で、いやしかし……。

【マンガ感想】やがて君になる 7 / 仲谷鳰

 

「私を見くびらないで。

知ってるわ、あなたのことなんて」

 6巻の生徒会劇、侑が働きかけた脚本を演じたことを通じて燈子が燈子であることを始めたその瞬間に、この作品のカードは全部出揃って、ここからはそれがあるべきところ、タイトルである「やがて君になる」へと収束していく。そういう話だと思います。

ですが、そんなある程度の予想がつくところであっても、流石のキレというか、驚きの解像度で描かれていく、変わっていく燈子、侑、そして沙弥香の姿は本当に素晴らしかったです。シンプルでクリアで切れ味鋭い感じ、なんというか名刀って感じで凄い。

そしてやはりこの巻は佐伯沙弥香に尽きると思います。物語の流れからしたら何をどうやっても、沙弥香が選ばれることはないことまでは分かってた。でも、沙弥香の告白が燈子の意識を変えて、それが侑に向かうってこの残酷さは本当にね……。遅かったこともきっと分かっていて、いつまでも動かなかった自分の事も分かっていて、それでも言葉にすることを選んだ、それが佐伯沙弥香。

この一連の流れの行動も、言葉も、本当に佐伯沙弥香が120%佐伯沙弥香で、ああやっぱり好きなキャラクターだなと思うのです。そして過去に弄ばれた彼女の気持ちが、選ばれなかったとはいえ、燈子にはきちんと届いたということに、スピンオフを読んだ身としては救われるものを感じたのでした。