NHKにようこそ! / 滝本竜彦

NHKにようこそ! (角川文庫)

NHKにようこそ! (角川文庫)

うわぁぁぁぁぁぁぁといって本を閉じたくなる、そんな小説。
小説というよりはエッセイ感覚で読める、引きこもりのダメ人間と、その仲間のダメ人間達のダメダメなお話。からっと自虐ネタに仕上げたマンガ版よりもウェットな感じでそれがまた痛々しい。それでもひたすら沈む訳ではなくて、何かむやみに後ろ向きなエネルギーは感じるのですが。ただそれがまた痛々しい。
文章がうまいとか、構成がうまいとか、話作りがうまいとかそういう訳ではないんですが、とにかくダメ人間の思考パターンのリアルさにぞっとします。この感覚が分かってしまった時点で私の完敗。何かやろうとしてできなくて何かに怒って諦めて逃げ道を失ってもうダメだと言って死んでやるといって、それでも死ぬこともできなくて、くだらなくてそれでも生きていくことだけはできる、何かに怯え不安にまみれた価値のない日常を惰性で駆け抜ける。そんな感じ。後ろ向きの思考と逃げ場のなさ。自分がどんなにダメかとちゃんと客観的に分かっていて、それでも抜けられずにダメな自分にもうダメだと叫ぶ。なんというかもうヤバイです。
話は主人公の引きこもり佐藤君に、隣人でオタクでクリエイターを目指しエロゲの制作にとりくむ山崎に、佐藤君を謎のプロジェクトに誘う悲観的な宗教勧誘少女岬ちゃんのお話。真っ暗な未来に向かって怒涛の勢いで進む中盤から後半まではとても面白かったのですが、最後の方は少し納得が行かない感じ。確かにそういう考え方もありますけど。暗澹とした世界の中で、どこかに何でもいいから仮想敵がいないと生きていけないっていうのは、ある種真理な気はしました。それがどんなに稚拙な発想でも。
ちょっとセリフを引用。

「・・・・・・神様を信じられたら、幸せになれるよ。神様は悪いやつだけど、それでもきっと、幸せになれるよ」

なんかすごいよく分かるのが、なんとも。
自分はダメ人間だと思う人には絶対オススメの青春小説です。
満足度:A