F エフ / 坂入慎一

F エフ (電撃文庫)

F エフ (電撃文庫)

個人的には好き。ただ、人に勧めるものでは無い気がします。
とにかく淡々とした印象。無機質でシャープな感じの文章で常に一定の陰鬱とした雰囲気。イメージカラーは灰色。闘ってても何してても盛り上がる感じは無いです。シリアス一辺倒で笑うようなところもありませんし。その静謐な雰囲気が魅力的だと思うのですが、退屈に思っても無理は無いかなと。私は最初の方はどうも入り込めなかったのですが、途中からはすんなり読むことができました。冷えた感じの空気は心地よいです。
話は二人の少女を中心とした4本の連作短編になっていて、どの話も「生きること」と「死ぬこと」がテーマ。魔術師が登場したり、「死ににくい才能」だの「死を恐れる才能」だのを持った異能者が登場するあたりは今っぽいというか、空の境界っぽいといってしまっていいような気がします。話自体は違うものだと思いますが。とにかく観念的というか哲学的というか、ストーリーを通じて生死についてひたすら考え続ける内容なので、合わない人には合わないだろうと思います。ちなみに主人公は死を尊び、必死に生きよう、生かそうともがく人。あがく様がなかなかカッコよいと思います。
話の中では死神が一番好み。死を恐れるあまり日常に潜む死が見えて、それを引き起こしてしまうという才能をもった少女の話ですが、ここで展開される生死の話が共感しやすい内容だったこともあって一番面白かったです。基本的にこの類の弱さを描いた話は好みなので。
とてもよくできてるわけでは無いけど、好みの作風だったので楽しめました。続きは出たら読みたいですが、これで上手くまとまってるので出ないのかなと思います。
満足度:B