"文学少女"と飢え乾く幽霊 / 野村美月

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

本を食べちゃう妖怪の遠子先輩となにやらトラウマ的な過去のありそうな「元」覆面美少女作家の心葉君が巻き込まれる学園コメディちっくミステリー、でいいのかな。
話としては、幽霊の仕業かもしれないいたずらを発端に、少女とその後見人の織り成す謎に巻き込まれていくような感じ。ちりばめられたピースがはまって謎が溶けるという意味でミステリー展開。ただ、前作でも感じたのですが、どうもごちゃついた印象でパズルがピタッとはまって爽快という感じではないです。そういう意味では謎解きのカタルシスはあまり期待しないほうが良いかも。
特色としては、古典的な作品を下敷きに物語が語られるということなのですが、今回はそれが上手くはまってた様に感じます。下敷きにされた作品の筋にかなりそのままっぽいので作品名は伏せますが、その作品を読んでなくてもその作品の存在がきっちり生きていることは感じられる作り。そして前回の太宰はさっぱり感情移入できないでそれを下敷きにした作品自体にも興味がもてなかったのが、今回のストーリーには琴線に触れるものがありました。特に、解決編に入ってからの展開は素晴らしかったです。
このシリーズ、小中学生くらいを対象にしているのかなと思わせるような優しいというか緩い空気や、わかりやすすぎるキャラと説明過多気味の文章で、作品としての出来は良いけど好みではないなぁと思っていました。そしてこの巻も前半まではそう思っていたのですが、後半で印象が変わりました。下敷きになった作品がうちの母曰くメロドラマらしいので当然なのかもしれませんが、一つのボタンのかけ違いから始まった強烈な泥沼愛憎劇にやられました。もちろんラノベなので抑えてはあるのですが、前半との落差もあってなかなか強烈。ラストの剥き身の感情のぶつけ合いは非常に良かったです。悪趣味ながら美しい物語の幕の引き方も、ある人物から語られるエピローグのあり方も非常に好み。少しずつ語られる心葉の物語もありますし、次も楽しみなシリーズになってきました。
満足度:A