灰色のダイエットコカコーラ / 佐藤友哉

灰色のダイエットコカコーラ

灰色のダイエットコカコーラ

「もう、夢の中に逃がしたりはしませんから」

出口が見えない。
正直、あらすじを読んだ時に、「3年前だったら熱狂していたかもしれないけど、今はもうなぁ」みたいなこと思ったのですが、とんでもない。今だって十分にクリティカルで、それだけに何をどう言葉にしたらいいのか悩むところのある小説でした。
何も特別なことはない片田舎の街で、大きすぎた祖父の影響と、同士で憧れだったミナミ君の影響を受けて、自分は特別な存在なんだと信じる特別じゃない青年の物語。覇王になると自分に言い聞かせて、あいつらはみんな肉のカタマリだ虐殺してやると息巻きながら、結局のところ現実の力強さの前に吠えるだけの青年の物語。普通を病的に嫌悪しながら、特別になんかなれない青年の物語。
主人公の捉える「覇王」の概念は幼稚で浅はかでどこまでも空虚で、そこについては主人公が対峙する多くの人物との会話の中で何度も繰り返され、そんなことは本人だって分かっていて、それでも自分は覇王になるのだと言うしかないというこの状況がきついです。キャラクターにしても起こる出来事にしても現実感なんてほとんどないはずの滅茶苦茶な物語の中で、「何者にもなれない僕」の切実さだけが際立ちます。
この終着点は、始まった時点で予想ができて、そこしかないだろうという主人公の成長した地点ではあるのですが、なんというか、結局もがきあがいたところでここまでですよ、という感じ。結局「普通」を受け入れられない人間にとっての出口ではないように思えるのです。
この話を笑い飛ばせたら精神的には一番いいのでしょうけど、この今を生きることの切実さを他人事に感じられない自分もどこかにいるというのが、佐藤友哉作品の怖いところだと思います。
それにしても、ここで一つの終着点として示されている地点までたどり着かない、肉のカタマリにすらなれない人間はどうしたらいいのでしょうか。
満足度:A−