世界の終わりの終わり / 佐藤友哉

世界の終わりの終わり

世界の終わりの終わり

出口はこんなにもシンプル。
「1000の小説とバックベアード」「灰色のダイエットコカコーラ」「クリスマス・テロル」の系譜にある、小説と作家と青春をめぐる、「佐藤友哉」の小説。
実際に作者が仕事を失っていた頃に書かれた夢を叶えながら夢に破れた小説家の物語で、しかも講談社で賞を取って数冊の小説を出版するもクビになった北海道在住の妹萌えな若者が主人公と言われたら、どうしても読者としては作者の姿を主人公に重ねざるを得ない訳で、佐藤友哉という作家のこれまでの軌跡やこれ以外の小説を知っている身としては、もうそこで負けています。惹き込まれない訳がない。
そんな物語ですが、ストーリーは非常にシンプル。一度小説家になりながらも夢破れた北海道から出られない若者が脳内妹と会話したりしつつ腐っている生活を捨てて、一念発起の上京を果たすも復讐のための小説は書けずに状況は悪くなる一方で、ボロボロになって地元に戻ってきて、という感じ。ひたすら悩み惑い怖がって沈みこんで、世界の全てに復讐すると粋がって無理やりにでもテンションを上げて攻撃的に振舞うことしかできないで、でもそれでも何もできない自分に打ちひしがれるという救いの無さがユヤタン。空っぽなのも馬鹿らしいのも届かないのも分かっていてでも、そうあるしかない苦しさと言うか。
そして小説を書くということ。夢としての小説。当たり前の作業としての小説。手段としての小説。書きなぐられた駄文に日記。どんなになっても、どこまで行っても、主人公が小説を書くことを手放せないのが、小説を書くことでしか生きられないという感じで、幸福に見えるような、悲壮に見えるような、何とも言い難い感じ。
でも、この作品にはちゃんと出口が、それも非常に単純で、だからこそ力強い答えがありました。そのこと自体が、なんだか前向きな気分を与えてくれて、素直に良かったなという気分にさせてくれたのが印象的。
過去の事故を理由にしているようで、そこではなく全く別の理由で必要とされる脳内妹や影という妄想との対話。現実と闘うと決めて撃って出た東京での笑い事では済まない墜落。それでも、もがいて逃げて闘って、その先にたどりついた答えがここならば、脳内だって宗教だってアルコールだってその他どんなに酷いことだって、なんだか無駄にはならないのかなと、そんな気がしたのでした。
満足度:A