ほうかご百物語 / 峰守ひろかず

ほうかご百物語 (電撃文庫)

ほうかご百物語 (電撃文庫)

第14回電撃小説大賞大賞受賞作。
抜群の安心感はさすがの大賞作品。新人作品にしてこれだけ瑕疵なくまとまっているのは素直に凄いと思いました。
学園で巻き起こる妖怪騒動に、美術部の面々が関わっていく形の連作短編。個性豊かなキャラクターと多種多様な妖怪が巻き起こす騒動も楽しいのですが、やっぱりこの作品の主たる楽しみはヒロインのイタチさんと主人公の真一のカップルを見てにやけることな気がしてなりません。
妖怪の出やすくなっている学校で、その上妖怪を惹きやすい体質を持った真一が出会った一匹の化けイタチ。とんでもなく綺麗な少女の姿をしたイタチさんは真一の血を吸いに来たわけですが、魅入られた真一は思わず絵のモデルをお願いしてしまいます。正体を見破られその場は退散したイタチさんですが、その後約束を果たすために学生として学校に現れるのです。
そんな感じで始まった二人の関係は、友達以上恋人未満な感じで非常にこそばゆいです。最初からお互いに大事に思っているのだけれど、2人とも普通の「好き」という感情とは少し違うのでなんだかちょっとズレた不思議な感じ。そんな感じで、でもだんだんと近づいていく2人の距離には思わずニヤニヤしてしまいました。素敵。
イタチさんはおっとりしていながら頑張り屋で、でも意思は強かったり妖怪なので常識ずれしていたり。そして何より、言葉の足りない感じの喋り方が可愛らしいです。さりげなく変人な真一、妖怪博士な周りを振り回す経島先輩、高飛車な九尾の狐の稲葉先生をはじめキャラクターも個性豊かに賑やかで魅力的。ストーリーも短いながら優しい雰囲気で安心して読めます。
ただ、全体的に飛び抜けたものは無かったような印象も。妖怪絡みの話も、さらっと退治されてしまうので微妙に物足りなさがありました。ただ、その反面尖った部分が無く、幅広い層が安心して楽しめそうな作品になっていて、それはそれで大賞らしいのかなとも。イラストも綺麗で可愛らしいですし。
そんな訳で楽しめた一冊でした。これ以上続けてもパターン化しそうですし、ラストも奇麗にまとまっているので、次は続編よりも違う話が読みたいかも。