【小説感想】こわれたせかいのむこうがわ ―少女たちのディストピア生存術― / 陸道烈夏

 

 電撃小説大賞の銀賞受賞作は、世界で唯一残された独裁国家の下層社会で生きる少女が、砂漠の向こう側を目指す物語。

このフウという少女が手にしたのはいつかどこかの教育番組が流れ続けるラジオで、母親を失った彼女は、そのラジオから聞こえる声をよすがに生きてきた。それを聞き続けたことが、彼女にこの国にあらざるべき経済や自然科学の知識を与えます。そして天涯孤独だった彼女が、国から追われる謎の少女、カザクラと出会った時に、物語は動き出す。

生きるので精一杯の最下層から、王を神と崇める抑圧の国家から、どこまでも続く過酷な砂漠から。どこかを目指したフウの旅を支えたのは、ラジオから得た知識と、心を開き手を取った仲間の力。

このチオウという国や砂漠の描写にすごく雰囲気があって、そこから脱出する少女の物語という時点で、もう勝っているという感じです。そこに加えて、強い力を持つ人造人間であったカザクラとの関係、ラジオの電波がどこから来ていたのかという謎、絆と知識を握りしめ、救いを目指して挑む少女たちの冒険。そんなの魅力的に決まっているし、彼女たちの行く末が救われたとしても、手が届かなくても、もうどうしたって泣いちゃうじゃん、みたいな。

後半の展開は駆け足にイベントを消化していくようなところはありますし、文章も謎の明かし方もかなり粗っぽいところもありますが、それが逆に砂漠に伝承される物語的な雰囲気に繋がっているところもあって、全体として凄く良いものを読んだなあと思う一冊でした。