傷物語 / 西尾維新

傷物語 (講談社BOX)

傷物語 (講談社BOX)

化物語の前日譚。阿良々木暦と吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード、後の忍野忍の間に起こった「春休みの出来事」が描かれます。
瀕死の状態だったキスショットを助けるため自らの命を差し出し、逆に眷属として生かされることで命を救われた暦。キスショットを完全体に戻し自分は人間に戻るため、吸血鬼退治の専門家とのバトルに挑んでいくわけですが、後半にかけて立て続けに明らかになる真相に驚き。完全に暦と同じ視点で物語を読んでいただけに、それぞれの思惑があんな風に働いていたなんて思いもよりませんでした。
誰にでも優しいという暦のキャラクターは相変わらずで、それ故に招いたバッドエンドでもあるという感じ。というよりも、作品全体で他人のための自己犠牲的な行動を見せるキャラクターが多すぎて、身勝手な優しさの恐ろしさを感じたり。
特に暦にどこまでも献身的で、吸血鬼と化した暦を恐れもせず、暦の数々のセクハラ発言まで気にしないというむしろ真に受ける羽川翼というキャラクターは、優しさという言葉を越えて、正直気味の悪さを感じます。表面上は都合の良いキャラクターに見えて、ここまでいくともはや一つの依存の形のような気がします。
前作とのつながりの部分は見事。それぞれの間で過去にこんなことがあったと知り、それを踏まえた上で化物語を考え直すと、また物語の見え方が全然変わってくるのが上手いなぁと思いました。化物語での暦の忍への強い拘りと、暦がいなければ生きていけない忍の姿が、こんなに苦く、やるせないものになるなんて。
ただ、色々考えつつも私のこの作品に関する感想はキスショットが素敵過ぎたというその一点に尽きてしまうような気も。賢いようでボケた事を言い、傲慢でいて理性的でもあり、冷血な様で優しさも見せる金髪の吸血鬼とかそれだけで十全。おまけに幼女でもあったりするものだからさらに倍、みたいな。だからこそ、この物語はバッドエンドでも、これを踏まえた上での化物語ラストシーンは、きっとハッピーエンドだったんだと、そう信じたい私です。