【小説感想】吸血鬼に天国はない 3 / 周藤蓮

 

吸血鬼に天国はない(3) (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない(3) (電撃文庫)

 

「そして、生きている人は皆溺れています」

 やっぱりこのシリーズめちゃくちゃ好きだなと、強く思った一冊。この低いところで不安定に安定している感じ、ザラッとした手触り、空虚と欠落を並べ続けて切実を描き出す手付き、凄く好みです。

脱獄した『ボーデン家の死神』。彼女が街に起こした混乱に、シーモアもルーミーもそれぞれに巻き込まれていくという話なのですが、別にこう死神をやっつけるぜみたいなノリは当然なく、そうならざるを得なかった人たちが、それでもしがみついたその場所で、そういう繋がりを描いていくという物語。人を糧として生きる『吸血鬼』も、死体を積み上げる『死神』も、超常そのものすらあんまりにも普通なことに絡め取られて、もがき生きるしか無いという、それだけの話でもあります。そしてそれは、陳腐にも愛と呼ばれるものであると。

キャラクターもその関係性も雰囲気もストーリーも全てが大変に好みなのですが、しかしこれエンタメ的なものを期待して読むと、キャラクターの動きは理解できないし、盛り上がるべきところで盛り上がらないしで、非常に取っ付きにくいのではという余計な心配もしてしまったり。でも私は本当に好きなので、このままで続いてほしいなと思うシリーズです。