とらドラ・スピンオフ3! / 竹宮ゆゆこ

様々な媒体で掲載された掌編、短編に書き下ろしを加えたとらドラ! 最終巻。
時系列もばらばらな、パラレルワールドをはじめとするif展開満載の作品群で、一つ一つの話は小粒で物足りなさを感じる面もありましたが、その中でもこいつら仲いいな、楽しそうだな、ホント青春だな! と思わせてくれる魅力にあふれていました。特に大河と竜児はもう恋人関係とか飛び越えて早く結婚しろよお前らという感じで大変ゴロゴロするものがあると思います。
話の中では書き下ろしの「ラーメン食いたい透明人間」が能登と木原の間の微妙な距離感と、一歩を踏み出すまでの揺れ動く心理、そしてこっぱずかしい行動ととらドラらしさ全開で面白かったです。お前らも幸せになれよ! 的な。
それから、「不幸のバッドエンド大全」のとらチワエンドが何故か好き。彼ら彼女らのif展開のバッドエンドを幻視するというお話で、北村と実乃梨のやっちゃった感満載の未来は変にリアルでげんなりするものだったのですが、大河と亜美のバッドエンドの方はダメながらダメなりの幸せが見えて好みでした。家族と暮らすも結局家を飛び出してモデルの小さい仕事をこなしつつ転々としていた大河と、芸能界で挫折していた亜美が出会い、芸人ブームに乗っかってお色気コンビとらチワ! として活動している、という書いてみると嫌過ぎる未来。
でも、なんだかんだと失敗して挫折して、それでもたどり着いた現在。大河と亜美と、二人のマネージャーを務める竜児の切っても切れない関係は、キラキラとしていた過去からは遠く離れ、時間の流れは残酷であったとしても、ダメダメな状況の上でささやかな幸せをつかみ取っている強かさに満ちていて凄く良いと思います。成功した実乃梨や北村との距離感の取り方や、竜児との再会までの流れも、妙なリアルさがあって良かったです。むしろこのifの話で一冊小説を書いて欲しいくらい。
そんな感じでとらドラの最後のオマケ的に楽しめた一冊。個人的には、バッドエンド大全の中でも少し出てきていたような、大人の話を描いた時の竹宮ゆゆこラノベ的な部分とリアルな手触りを感じる部分のバランスがとても好きで、そういう意味ではほんの数ページの掌編ですが「ドラゴン泰子」も女性作家らしいふわふわ甘さとどろどろした黒さを感じさせてくれるものでした。こういう作風があるのだから、是非MW文庫辺りでもう少し上の年齢のキャラクターたちの物語を書いて欲しいなと思った一冊でした。