- 作者: 十文字青,青稀シン
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2008/05/20
- メディア: 文庫
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タイトルや世界設定は上手く料理できないと痛々しくなるようなセンスだと思いますし、異能バトルな展開も陳腐といえば陳腐。それでもこの物語がこれだけの魅力を持つのは、夏彦という主人公の一人称からもたらされる独特の空気。そしてそこから浮かび上がる、この物語世界が確かに存在しているという手触りみたいなものがあるからだと思います。
人から受ける好意にも悪意にも鈍感で、世界と一枚薄皮を隔てて接しているような印象を受ける夏彦が出会う人々と、巻き込まれていく事件は、まさしく非日常そのもの。夏彦の心を惹きつける謎の少女トワコ、幼馴染の猫占い師希有、夏彦と出会う不思議な力を持った双子の真鳥姉妹。
現れる人々、明らかになる事実、起きる出来事、すべては現実離れしているのに、日常と変わらない態度で接する夏彦の視点を通すことで、まるでそうあることが当たり前のように思えてくる感覚が不思議。夏彦という私の発想を超えたキャラクターの内面を通じて描かれる世界はなかなか素敵なものがありました。
どこか詩的な印象を受ける文章とも相まって、この世界に浸れるような感じ。これは、波長が合う人にはたまらないタイプの小説なんじゃないかなと。
話としては、まだ謎を多く残したままでまさしく序章という感じ。ラストの驚きの引きもあり、この先彼ら彼女らに何が起きていくのかが非常に楽しみです。