ダンタリアンの書架1 / 三雲岳斗

ダンタリアンの書架1 (角川スニーカー文庫)

ダンタリアンの書架1 (角川スニーカー文庫)

この世のものならざる力を持つ「幻書」を巡る物語。
図書館でゴスロリちっくで本読みで口の悪い少女という設定と、表紙のイラストだけで思わず飛びついてしまった一冊。ここまで的確にツボを突かれると、あざといと分かっていても人は釣られてしまうものです。
禁断の幻書を納めるダンタリアンの書架、その入り口たる少女ダリアンとその鍵守である青年ヒューイが、幻書にもつ力に惑わされる人々と関っていく連作短編の形の物語。魔術的な力を持ち人々の願いをかなえる半面、その力故に人々を捉え狂わせる幻書というものの存在が、人間の欲望の限りなさを映し出し、それがもたらすちょっとブラックな結末を導いていくあたりはさすがにベテラン作家だけあって上手いと思いました。中でも「叡智の書」の皮肉な感じはかなり好き。
そしてキャラクターとしてはダンタリアンの書架の入り口である「黒の読姫」ダリアンの魅力。はるか昔から生き続ける人に在らざるもので、陶器人形のような美しい姿をもちながら、揚げパンやお菓子が好きでヒューイに対しては口を開けば罵詈雑言。異形の者としての姿と、犬におびえるような子供っぽさを併せ持ったキャラクターには、まさに狙い澄ました感じではありますが、とても魅力的。そのダリアンと、頼りないようでいざというときは頼りになる感じで、飄々とした雰囲気のあるヒューイはなかなか良いコンビだと思います。
ただ、個人的にはダリアンには、異形者が持っている超然とした何かが足りないかなという気も。普通に子供っぽい、悪く言えばアホの子のような振る舞いや言動が多いので、特別な存在としての魅力や深淵さを感じられなかったのが少し残念でな感じでした。
そんな感じで全体的にウェルメイドというか、安心して読める瑕疵のない作品でした。ただ、その分尖った魅力のようなものが足りない気がするという物足りなさもあったり。
ただ、まだ物語は導入部分。最後の章で登場した、ヒューイとダリアンの対に当たるであろう焚書官のハルと「銀の読姫」フランのコンビも魅力的ですし、この二組が絡む大きな物語が動いてきたときに、物語がどう動いていくのか期待して待ちたいと思います。