ベン・トー 3巻 国産うなぎ弁当300円 / アサウラ

相変わらず読み始めはこの奇怪な設定がスッと入ってこなくて、しかも繰り出されるギャグもやたらと濃い口なので、どうにも作品に入っていけない感じを受けるのです。しかしながら中盤を過ぎるころには、もうすっかり作品世界に没入しているというマジック。
オルトロスこと沢桔姉妹の圧倒的な強さと奇妙な態度に彼女らの過去への興味をひかれ、救い難いバカだけど愚直な佐藤の真っ直ぐな男気に惚れ、飼い犬としての過去と決別し一匹の狼として疾り出す二階堂の姿に胸を熱くする。
そして熱い熱いクライマックス。交錯する拳と想い。その先にあるうなぎ弁当の旨そうなこと!

人々の笑顔が集うスーパーに、悲しみの涙など必要ない。

読み終えた後にこんなに充足感のある作品はなかなか無いと思います。
それにしても、本当にスーパーの半額弁当争奪戦というネタをここまで面白くできるこの作者は何者なのか。本当に美味しそうな食べ物の描写、謎を残しながら先へ先へと興味を引くストーリー、クライマックスに向けて盛り上がる構成、何気なく複雑化する微妙な心理をはらんだ恋愛模様。一つ一つの要素がハイレベルだからこそ、全てが合わさった時に、一発ネタでしかない設定から奥行きのあるベン・トーの世界が立ちあがってくるような感じ。
そして今回の話ではオルトロスが良かったです。ちょっと頭の足りない感じで猪突猛進型な姉と、冷静に姉をサポートする妹の双子の姉妹。彼女たちが犬のように振る舞いながら、歴戦の狼たちすら圧倒するキャリアと実力を持つという意味。闘うことに喜びを見出しながら、どこか怯え、自分たちを負かしてくれるものを探す理由。
その全てが一本につながった時に浮かび上がる残酷な過去と、その全てを吹き飛ばす狼たちの誇り。闘いとその先にある半額弁当を求めざるを得ない、気高く真っ直ぐな狼たちの姿に思わず目頭が熱くなり、その世界には憧れすら抱きます。でもちょっと冷静になってこれ半額弁当争奪戦なんだよなぁと思うと、何だかいろいろ悩ましい……。
そして、親父の「ペットボトル・セット!」のくだりを読んだ後にあとがきに目を通して、元々はいったい何処まで暴走していたんだろうと、担当の仕事ぶりに想いを馳せたり。あ、でも白粉ネタはもっと出していけば良いと思います!