白の断章 / 鏡征爾

白の断章 (講談社BOX)

白の断章 (講談社BOX)

流水大賞初の大賞受賞作品。
ある事件をきっかけに、打ち込んできたサッカーから離れようとする主人公と、彼の前に現れたスタンガンを持つ謎の少女百合亜の復讐劇を描いた小説です。
引き継いだ記憶をもとに次々と復讐を果たし、同時にスタンガンで自分の殺していく少女とそれに関わった少年の暗黒青春小説的な側面と、サッカーの名門高校で厳しい練習に明け暮れながら、ある出来事から挫折してサッカーから離れようとする少年のスポーツ青春小説が組み合わさっているのが不思議な読み心地。
爽やかになってもよさそうな部分と、もっと歪んでもよさそうな部分の両面があって、どちらかに寄せてもよさそうな気もするのですが、これはこれで独特の雰囲気。そして文章自体もやたらと格好つけた表現で落ち着いた文体を使おうとしているかと思えば、突然崩れてギャグっぽくなったり。さらに、キャラクターも日常と乖離した異形のキャラクターのようでいて、高校生らしい稚気というか、バカっぽさを見せるというのが変でちょっと気持ち悪い感じ。でもこの不安定でアンバランスな感じが、高校生の一人称で進む小説としてはあっているようにも思います。
ストーリー的には、序盤から中盤にかけてはいまいちのれない感じでどうかと思っていたのですが、謎が一つに繋がって、そして高校の体育祭でのあることを賭けた決闘のシーンからは一気に引き込まれました。
トラウマ的な出来事で離れざるを得なくなり、色々自分に良い訳をして、それでも捨てられないサッカーという競技。それを自分に取り戻すための闘い。そして百合亜という謎だった少女が持っていた意味。それまでで描いていたものを踏み台にして描かれたほんの数分に過ぎないはずの時間が、ここまでの濃度で迫ってくる様まさに圧巻でした。
そしてさらにそれを踏まえたうえでのExtra Fileがまたとても良かったです。サッカーに賭ける想いを叩きつけるような文章の迫力がもたらす、自分もその場にいるかのような高揚感に圧倒される感じ。凄かった。本編とは直接は繋がっていないからExtra Fileなのではありますが、本編があったからこそのExtra Fileであり、Extra Fileを魅せるための本編だったのかなと、そんなことを思いました。