レンタルフルムーン 第一訓 恋愛は読みものです / 瀬那和章

恋せよ少年少女! な物語。
子供時代の経験から面倒事を避けて生きるようになった桐島新太が、小さな貸本屋で出会った満月ツクモという不思議な少女。傲岸不遜で自分勝手なツクモに振り回されながら、恋愛なんて面倒臭いと思っていた新太は彼女に惹かれている自分に気がついて行って……、みたいな感じの話。
この世界は神々による実験で創られた世界の一つで、”観測者”であるツクモが新太が見ることができる”パンドラ”を記録しないと用済みになってしまうという、リアルに世界の存亡をかけた設定があったりもするのですが、にもかかわらずどこか等身大なファンタジックラブコメディになっているのが面白かったです。
というのも神様は貧乏人全開で、しかも神々の社会の世知辛さがあんまりにあんまりだったり、世界を滅ぼしそうな敵はテンプレ悪役を間抜けに演じているような人だったりと、どこか緊張感が無い脱力系なノリが全編を包んでいるから。天使の戦争がアレだった時の脱力感とか、思わず固唾を呑んだ私がバカだったと思うようなレベル。絶妙な肩すかし感はこれはこれで非常に面白いですが、力の抜けきった世界レベルの危機よりも、やっぱり新太やツクモの織りなす等身大の感情の動きの方がメインになってくる感じ。
ツクモの性格は理不尽で滅茶苦茶で、自分もロクにできないことを棚上げして偉そうに振る舞う辺り最初はどうにも受け付けなかったのですが、彼女がどうしてそう振る舞っているのかを知るにつれて、そんな彼女に惹かれる新太の気持ちが分かってくるような感じ。特にクライマックスでの彼女の振る舞いには、ツクモという少女の性格が現れていたと思います。
そして恋愛は読むものだと断じていた新太の方も、厄介事ばかり引き起こすツクモに翻弄される中で、処理しきれない自分の気持ちに振り回されて、でもそれを自覚して走り出すあたり、「頑張れ男の子!」と微笑ましく思いました。鈍感主人公が多い中、こういう真っ直ぐに人を好きになる主人公もやっぱりいいものだなと思います。
そして脇キャラ達も個性豊かに残念な感じで、ツクモの天然に酷い扱いにも100%純粋な愛情を向けるオコジョのクルンが健気過ぎて泣けたり、ツンツンとした優等生図書委員藤崎のラストでのぶっ壊れ方に「あぁこの子も……」と思ったりと賑やかな感じ。あと、恋愛ジャンキーな新太の姉が悩む新太にかけた言葉が凄く良かったです。
お話的にも小粒な感じではありますが綺麗にまとまっていて、柔らかい雰囲気も相まって何だかとても心地良い小説でした。何かが飛びぬけて凄いという作品ではないけれど、読み終わって思わず好きになっているような作品。これは、2巻も楽しみに待っていたいなと思います。