ヴァンパイアノイズム / 十文字青

ヴァンパイアノイズム (一迅社文庫)

ヴァンパイアノイズム (一迅社文庫)

死。誰にでも平等に訪れるもの。何もかもを無に帰すもの。その先に何も残らないもの。
この小説はそんな死に向き合った少年と少女の物語です。
無気力な少年ソーヤが出会った、「吸血鬼になりたい」という少女萩生。自殺をしようとしているように見えた彼女に興味を持って以来、引き寄せられるように彼女に近づいて行くソーヤ。吸血鬼なんてなれるわけがないと思いながら、吸血鬼になるための手伝いを始めたソーヤと萩生の関係は、近いようで遠いような微妙な距離感のままに、萩生の傷からソーヤが血を吸うという背徳的な行為に向かっていきます。
淡々として低体温なソーヤの一人称で描かれる世界は、どこか色彩に欠けるようにつかみどころが無くて、ふわふわと水面を漂っている様な感覚。そしてそんな彼の世界に混じってくる、幼馴染の詩歌、クラスメイトの那智、そして萩生との関係は、やっぱり淡白なようで、どこかに歪んだ繋がりを感じる不思議な感じ。この掴みどころのないコミュニケーションの形は、読んでいて面白かったです。
そして圧巻だったのは第6話。萩生の中にある「死」への恐怖。そして、それを知ったことで、ソーヤに芽生えた「死」への恐怖。突然やってくる終わりへの恐怖が、ダウナーな雰囲気を纏ったままに切々と重ねられていく文章は、漂っていた水面から水底へと引きずり込まれていくような感覚を味あわせてくれます。決して鋭利な感覚ではなくて、全身を絞められていくような緩くて強い恐怖感。
死と向き合うという経験はきっと誰もが何かの機会に持つことで、でも日常を生きるためには忘れていないといけないこと。そこに囚われた2人の世界は、不安や恐怖がどんなに人の心を蝕み、力を奪っていくかを知っている人ほど、惹きつけられるものがあるかと思います。
そして、そんな中で2人が重ねる手の温もり。身を寄せて温めあえるほどではなく、かといってそこにいない訳ではない。誰かがそっと隣に居るというただそれだけのことが、茫漠とした恐怖に包まれた真っ白な世界の中で、そこに立っているための特別になるのだなと、そんなことを思った作品でした。
テーマ的に凄く青くて、しかもそれが余りにストレートなので、人によっては受け付けないのかもと思いましたが、この冷たく静かな雰囲気と、その中に感じる儚くも強かな繋がりは、とても好み。素敵な小説でした。