シアター! / 有川浩

シアター! (メディアワークス文庫)

シアター! (メディアワークス文庫)

笑って泣いて、面白かった! で本を閉じられる、これぞエンターテイメントな一冊。
弟の巧の主催する劇団シアターフラッグが積み上げた借金200万。その分のお金を貸す代わりに、2年以内に返せないようなら演劇なんてやめてしまえと突きつけた兄の司。そんな二人の兄弟と、劇団に入ってきたばかりの実は人気声優な千歳を中心に描かれるアマチュア劇団の日々を描いた物語。
社会性に欠けていてヘタレっ子で、でも甘え上手で脚本の才能は本物な巧と、しっかり者で何でもソツなくこなす優秀なサラリーマンの司。夢追い人だった父親を見ているだけに、弟には早く不安定な世界に身をおくことをやめて欲しいと思いつつ、いじめられっ子だった弟を変えた演劇、そしてそこで発揮される弟の才能に惹かれているのも事実な兄のツンデレっぷりが半端ないです。困ると泣きついてくる上に万事いい加減な弟にガミガミと説教をしつつも、なんだかんだで助けてしまうダダ甘お兄ちゃんぶりは、2年間はしっかり見届けるという口実のもとにいつの間にか劇団の制作ポジションで辣腕を奮ってしまうほど。そんな兄に対する弟の無条件の信頼も凄いですが、兄の弟の才能への信頼も負けず劣らず。もう何このブラコン兄弟! という感じですが、これがまたニヤニヤさせられるものがありました。
そしてそんな巧の率いるシアターフラッグは、アマチュアながらそこそこの集客を誇る劇団。ただ、内実は未だにみんな仲良くやりたい、趣味なんだから貧乏でも構わないという学生サークル意識みたいなものにどっぷり浸かったまま。そんな劇団に入ってきた千歳の存在は巧を変え、資金面では司が大なたを振るいます。
収益を上げられる、商業でもやっていける劇団へ。そんな変わりつつある劇団の個性あふれるメンバーたちが、ぶつかったり、助け合ったり、複雑な人間関係を描いたりしつつもひとつになって、より良い公演の実現と劇団の発展を目指していく姿は正しく爽快の一言。軽快な会話と、キャラクターの魅力、そして物語をひっぱていくスピード感に乗せられて、いつの間にかシアターフラッグの一員になったような気持ちで読んでいる自分がいました。公演を襲ったあるアクシデントをクライマックスに持ってくるのもお約束ではありますが、団結してそこに立ち向かう一同の姿に思わずグッときたり。皆で何か一つのものを創り上げていく楽しさに満ち溢れていた感じです。
キャラクターたちもなんだかんだ言いながらも憎めないやつらで、そのこれから色々発展しそうな恋愛模様含めてとても良かったです。バリバリのサラリーマンである司と創作畑の住人な劇団員の間には当然のように価値観の違いがあるのですが、どちらかに肩入れするわけでもなく、どちらの言い分も良くわかるように描かれていたからこそ、面白く読めたのかなと思います。そしてその中で出てくる、思わずその通り! と快哉を叫びたくなるような言葉の数々もまた魅力的でした。
そんな感じで、純粋に心から面白かったと言えるような一冊でした。そしてシアターフラッグはまだ第一歩を踏み出したばかり。きっと出るだろう続編を、楽しみに待っていたいと思います。