東方儚月抄 Cage in Lunatic Runagate. / ZUN

東方儚月抄 〜Cage in Lunatic Runagate.

東方儚月抄 〜Cage in Lunatic Runagate.

東方の原作者本人による初小説単行本。マンガ版の儚月抄の裏側を埋めていくような話になっていて、これだけでストーリーが完結しないためマンガ版未読者が読むには厳しかと思いすが、表向きに起こっていたことを描いていたマンガ版と表裏一体のような構造になっているので、マンガ版を読んだ人は要チェックな1冊になっている感じ。
1章ごとに別のキャラクターの口から語られる物語は、なかなか語られる機会の少ない設定やキャラクターが掘り下げてありました。色々な要素が詰め込んであるような東方の世界観を、神話絡みの薀蓄を交えながら筋を通して語っていく辺りは流石原作者。月の民から地上の民、境界を司る妖怪に吸血鬼に亡霊も違和感なく作品世界に馴染んでいます。
そしてそのキャラクターたちの掘り下げがされていたのが嬉しいところ。八雲紫はこういう性格で、彼女が仕掛けた第2次月面戦争がどういうものであったか、蓬莱山輝夜八意永琳が地上で何を想い暮らしているのかといったところも良く分かりましたし、西行寺幽々子の天然ボケなのか聡いのか分からない感じも伝わってきました。
そして凄く良かったと思うのが第4章。大筋とはあまり関係のない妹紅の章なのですが、彼女が不老不死に無るに至った過去の経緯、そして殺し合う仲である輝夜に対する想いが描かれていて素晴らしかったです。殺したいほど憎い、同じく不老不死の存在であるからこそ、絶対に失いたくないと想う倒錯した愛情のようなものには萌えるものがありました。
抑えた筆致で描かれる文章も雰囲気が良いですし、これだけ書けるのならばもっとZUNの書く東方の小説が読みたいと思います。ただその反面、もっとゲームや音楽ももっともっと作って欲しいという、本当に多才な人だからこその贅沢な想いを持ってもしまうような一冊でした。面白かったです。