とらドラ! 10巻 / 竹宮ゆゆこ

とらドラ10! (電撃文庫)

とらドラ10! (電撃文庫)

楽しいことも苦しいことも全部ひっくるめて、誰かを好きになりたいなと思わせる作品。それ以上の褒め言葉は無いのかなと思います。傑作でした。
大人の壁を前にして、逃げだした竜児と大河。でも、力無き子供2人だけの逃避行で何処に行ける訳もなくて。それならば、彼ら彼女らは、いったい何をすればいいのか?
上がりきったテンションを緩めることなく続く怒涛の展開。友人たちの想い、大人たちの想い、そして何より2人の強い想いを乗せて、物語は大団円を目指して駆け抜けます。不器用で滅茶苦茶で、でも真っ直ぐ強い気持ちは、本当にどこまでもキラキラとしていて。
北村や、実乃梨、亜美の視点で書かれた冒頭部分に、それぞれの抱えたものを見て思わずウルっときて、中盤から先はなんかもう読んでいてボロ泣き。そしてたどり着く大団円。ラストにかけての展開はちょっと駆け足かなとも感じましたが、安易に逃げるのでも、諦めるのでもなく、自分たちの居場所で自分たちの幸せのために力一杯生きていく姿には、とても感動しました。
とらドラ! という作品には何か特別なことがある訳ではなくて、竜児と大河という2人がいて、友人たちがいて、それを見守る親がいて担任がいてというありふれた世界での物語です。少年は少女に出会い、友人たちとの絆を深め、大人たちに見守られて育っていく。たくさんの楽しい出来事があって、それと同じくらいに哀しい出来事もあって、悩んで迷って、信じて恋して、時にはぶつかり合い、時には助け合い、そうやって生きていく世界。でも、それだけのことをこれだけ優しくパワフルに描いているからこそ、こんなにも愛に溢れた、人間とその絆への全力の賛歌になっているのだと思います。
さらにはキャラクターの魅力! 都合の良いだけのキャラではなく、誰もが彼もがそれぞれに色々なことを考え、それぞれのエゴを抱えて生きている様子が、凄く等身大で、キャラクターが生きているんだという実感を与えてくれていたように思います。特に主役5人は素晴らしかったです。だから、とらドラ! の描いた日々は、たとえ竜児目線の物語ではなく、大河や北村や実乃梨や亜美の視点から語ったとしても、同じように素晴らしいものになるんじゃないかなと感じます。
「ラブコメはあんまりなぁ……」と思いながら読み始めた私の先入観を打ち砕いた1巻から、完結となるこの10巻まで、とにかくテンションの落ちない、まさに濃縮された青春のような物語でした。少し思い起こせば、彼らの過ごした日々が鮮やかに蘇ってくるこの感覚に、良いシリーズを読めたなと満足感でいっぱいです。
今はただ、こんなに素敵なものを読ませていただいた作者に感謝を。そして、いつか次の作品でこの人の小説がまた読める日を心待ちにしています。