空色パンデミック 3 / 本田誠

空色パンデミック3 (ファミ通文庫)

空色パンデミック3 (ファミ通文庫)

どこまでも底が抜け続ける足場の上で、砂の城を造り続けるような物語。
どこまでが真実で、何が正しいのかさっぱり分からない世界の中で、組み立てては崩し、また組み上げては壊すという行為が繰り返されるのは今までと変わらないものの、そのサイクルが明らかに短くなり、その崩れ方はさらに強烈になっていく第3巻でした。
その崩壊は仲西景という一人の人間の存在そのものすら脅かして、そこに野中空というもう一人を映しだし、いくつかの物語が入れ替わり立ち替わり膨らんでははじけていきます。2巻までの伏線を織り交ぜ、作中作『空色パンデミック』の登場からメタ的視点まで物語の内部に取り込みつつ、ページを捲るごとに強烈な振り幅で色を変えていく物語は、まさにとりとめのない夢を見ているよう。でも、そこで繰り広げられる物語は、決して君と僕から広がることはなく、ご都合主義に彩られたもの。だから、なんとか立ってみせたと思ったら次の瞬間に崩れる足場の上で見る夢のようなそれは、どこまでも空虚に感じられて。
そしてこの作品が最終的に崩してみせるのは、君と僕の関係性、そして物語の結末。最後の拠処だったはずの君と僕の間をつなぐ想いを、君か僕の空想であると切り捨てて。そしてたどり着く結末は、最もらしいだけでそれが「正しい」ものかも分からずに。描いてきた物語も、築いてきた関係も、全ては空疎。
だから、この作品を読んでいて感じるのは、主人公の一人称で語られながら、今起きているようでどこか遠くの出来事のような光景を眺めているような感覚。それは、意味を失った世界の中で浮かんでは消えていく幻の上を揺らいでいるような、どこか不安感と寂寥感がありながら冷めた高揚感を併せたような、不思議な気持ちになるものでした。どんなにもがいても何の音もしないような、どんなに暴れても空気は塵一つも濁らないような、触れているはずなのに触れていない感覚。
それでも、主人公の視点から語られる瞬間瞬間の想いが、その時その時の行動が、この物語を一本の線上に繋ぎとめてきたことはだけは本当なのだと思います。何一つ確かなものはなかったとしても、僕がここにいることを拠処に、君はそこにいるものだと信じて、走って闘ってただ想いを繋いでいくこと。それだけが、このシリーズ通じて主人公が愚直に積み重ねてきたことであり、意味を奪われたこの場所で許された、最後の意味なのかなと思いました。
たとえそれが、「セカイ系的回答」として用意されたものであったとしても。
そして本当の答えは、この先に見つけられるものだと信じて。