魔界探偵 冥王星O ウォーキングのW / 越前魔太郎

魔界探偵冥王星O―ウォーキングのW (電撃文庫)

魔界探偵冥王星O―ウォーキングのW (電撃文庫)

舞城王太郎原作の舞台・映画「NECK」の登場人物である越前魔太郎の名を冠して、講談社ノベルス電撃文庫・MW文庫のコラボレーション企画として始まった冥王星Oシリーズの一作。内容的には、それぞれのレーベルの様々な作家が同じシリーズを描いていくことになるようで、この一冊はどうも私の好きな作家が書いているらしいということで読みました。
街の近くの森に隕石が落ちたという事件。夜中に家を抜け出して森へと隕石を探しに行く小学生の僕とクラスメイトのワル、そして登校拒否のシイノ。そして【空を歩く男】を追ううちに、同じく隕石の落ちた森へと向かう【冥王星O】の2人の視点を行き来しつつ、物語は語られていきます。
僕のパートでは、地味で目立たない少年である僕とクラスでも目立つ存在であだ名通りワルな少年との交流が良かったです。自由でなんでもできるように見えるワルへの憧れと気に入られた嬉しさと、その反面自分を顧みて卑屈になる心とか、タイプの違う二人の間に芽生える不思議な友情が、すごく小学生らしい、どこかであったよう手触りを持って語られているのが良い感じ。そして、虐待としか言い様がない扱いを母親から受けながらも、それを当たり前のように受け入れてしまっている僕の思考があまりにも無邪気に語られていく歪みに少しゾッとするものも感じたり。
そんな2人の少年に、不登校児で車椅子なシイノの3人で向かう夜のピクニック。無計画で興味本位で、でも非日常な経験に沸き上がってくるどうしようもないドキドキ感に、この感覚こそ子供の特権だと思いました。
ただ、そこから始まるのは、裏で進んでいた【冥王星O】パートとリンクしての本当の意味で非日常な事件。【彼ら】や【冥王星O】の謎はこの作品だけでは全く語られないので、正直少年たちの物語を横から壊しているように思えなくもなかったのですが、二つの話を非常に上手く絡ませていて、よくまとまった器用な作品だと思いました。それでも、やっぱり少年たちの話は少年たちの話として読んでみたかったかなという気持ちは残るのですが。
とはいえ、明らかになる真実の中で見えてくる、僕が両親に感じていた想いと、そんな両親をぶっとばしてやると語ってくれたワルへの想い。特に時を越えて語られるワルへの想いは、僕にとって彼が如何に眩しい、特別な存在だったのかが伝わってくるもので良かったです。事件のあと、約束の公園の前で僕の取った行動には、思わず切なくなるものがあったのでした。