電波女と青春男 7 / 入間人間

電波女と青春男(7) (電撃文庫)

電波女と青春男(7) (電撃文庫)

電波女からせーしゅん女へと、エリオの歩いてきたこれまでの時間と、丹羽くんの妄想で綴られるifの未来。一区切りの6巻を受けて、これまでとこれからという時間の流れを強く感じさせる1冊でした。
丹羽くん大妄想なマルチエンド式ifエンドの数々は、前川さんエンドとリュウシさんエンドが幸せさと寂しさを併せ持っていて凄く良かったです。脳が溶けるようなバカップル具合を見せながら、エリオがいてリュウシさんがいて前川さんがいる、その時間はもう二度と戻らないということ。このシリーズについては丹羽くんは周りから向けられた好意は分かっていて、それでも今の状態が幸せだから何もしないのかなとずっと思っていたのですが、そういうところにここまで自覚的な話が出てくるのはちょっとびっくり。誰かを選ぶということは、前に進むことであると同時に、今のままの関係ではいられないということ。進んだ未来の幸せさと、常に共にある失った過去への感傷。それを描く筆致が凄く好みで、改めて私はこの作者の小説が好きだと思いました。
そして逆に何も失わないそのままをキープした結果のようなエリオエンド。エリオと一緒に変わらない待ちの中で幼い子頃のエリオそっくりなひ孫と遊ぶ。周りとは仲の良いままに死別して、ゆっくりやさしく終わりに向かっていく二人の様子はとても幸せ感に満ちていて好きなのですが、でも実のところこれが一番夢物語だよなとも。そして社エンドは趣向を変えて、宇宙人というもっと大きな視点から、彼ら彼女らの時間の流れを見つめるような話になっていてこれはこれで良い感じ。女々さんエンドは何にも取らわれない女々さんの凄みを感じました。
そんな妄想マルチエンドの先に始まるのは、時間軸を今に移してせーしゅん女の休日のお話。ケータイ電話を買って浮かれ上がるエリオ、リューシさんからのカラオケの誘いと、前川さん丹羽くんリューシさんエリオで遊びに出かける休日。電波女になって、スマキンになってすべてを失ったエリオ。その彼女が、まだまだ色々な逆風を浴びながらもここまできたこと。1巻から読んできたものとして、楽しそうなその姿に本当に良かったねと胸にじんとくるものがありました。
なにか一つ道を選んでそこを歩んで、時間の流れが何かを失うことにも繋がるという短編の後に、そうやって歩んできた道が築いてきたものを、こうして見せてくれる構成は本当にずるいと思います。得るばかりでも、失うばかりでもなく、私たちは選び、歩み、お互いに影響を与えながら、時の中を生きて行く。物語の節目で、その瞬間を鮮やかに切り取った素敵な短篇集だったと思います。
そしてラストの新展開はどういう事……!?