電波女と青春男 5 / 入間人間

電波女と青春男〈5〉 (電撃文庫)

電波女と青春男〈5〉 (電撃文庫)

夏だ! 海だ! 水着だ! ということで青春の王道を駆け抜ける第5巻。
町内会の旅行に参加する藤和一家と、前川さん一家とついてきたリューシさんとかその辺りで、海で遊んだり、旅館でお酒飲んでみたり、夜の海を見たり、海辺のイベントでスポーツチャンバラ大会だったりとかそんな感じに夏満喫! 青春真っ盛り! 四十路女々さんもいるよ! というテンションの1冊になっていました。
女の子3人+叔母に次から次へとちょっかいをかけられる丹羽くんがモテモテすぎて大変です。ベタ懐きのエリオに好意を隠さなくなってきたリューシさんに、海で旅行という開放感からかちょっと本心を覗かせる前川さんと、もうなんとも幸せ者。でも、みんなにちやほやされてしかもそれがかわいい女の子なんだから当然居心地は良いでしょうが、現状に満足して受身に幸せを消費している気がついたときには波が引いていっちゃうぞ、と思ったりもします。丹羽くんは、気が付いていながら、気が付かない振りで今を満喫している感があって、そんなことしていると青春つかみそこねるぞ! という気もしたり。
そしてエリオの社会復帰、というかリューシさんとの関係の進展も良かったです。奇行に奇行を重てきたエリオをリューシさんが避けてきたのは極々自然なことで、それが旅行というテンションの上がるシチュエーションもあってか、同レベルでじゃれ合っているようなところを見せられるとなんだか微笑ましいなと。行きのバスでのぎこちなさが、スポチャン大会の頃には自然になっている辺りに、ずっとエリオの姿を見てきた読者としては、思わず女々さんと一緒に胸が熱くなる物がありました。
そして夜の海岸線。自分の浮かんでいたという海を見つめて、エリオは何を思うのか。色々なものを失いながら、子供の頃の元気さも少しずつ取り戻して、また歩き始めようとするエリオと、それを支える丹羽くんの姿は、なんだか良いものだなと思うのです。そして丹羽くんへの懐き方も合わせて、エリオは本当に庇護対象というか、ヒロインよりも娘ポジションなんだなと思ったり。
全体としては、相変わらず、雰囲気というか、空気感の描き方が凄く上手いと思います。夏の海、夜の旅館、海岸線。作者と私の感性がきっとすごく近いのだろうというのもあるのですが、ちょっとした描写で自分がいつかどこかで感じたことがある感覚を呼び起こされるような感じがあります。
ラストはまさかの再登場なキャラクターがいたり、かぐや姫のおねーさんが相変わらずカッコいいダメ大人でとても好きだったりしながら、楽しかった思い出を胸に一同は帰途へ。そして読者も一緒に、楽しい旅行だったなと思えるような素敵な一冊でした。