電波女と青春男 6 / 入間人間

電波女と青春男〈6〉 (電撃文庫)

電波女と青春男〈6〉 (電撃文庫)

「見てて、イトコ」
「……おし。青春女に、なってこい」

宇宙へと飛べなかった少女は、愛情の込められた強引なプレゼントと、引力に寄せられた人たちに背中を押されて、今再びここから歩き始めます。自らすべてを壊してしまったこの場所で。自分の足で。自分の声で。自分の気持ちで。
高校の文化祭編となる第6巻。前川さんを手伝ったり、リューシさんと一緒に文化祭を回ったり、女々さんとたこ焼きを食べたりと、相変わらずモテモテな丹羽くんの愉快な学園祭という感じで進んでいきますが、視点を変えながら語られる物語にの中は今まで見えなかった感情が見え隠れしています。前川さんの丹羽くんに惹かれつつも一歩引いてしまうような感じや、リューシさんの今まで以上に思い切ったアタックも青春模様という感じですが、丹羽くんのどこか確信犯なんじゃないか的鈍感パワーにはぐらかされてしまうのでそれはそれでなんとも。
それよりも、個人的に印象的だったのはリューシさんとエリオの関係。自分の電波発言と行動ですべてをぶち壊して、追い出されるように逃げるように去った高校という場所。エリオがそこに姿を現せばどんな視線を浴びるかなんて分かりきっていますが、そんなところに自らもう一度足を踏み入れたエリオの、手を伸ばしたくて、でも怖いという心情を思うと、今までの、宇宙人をやめてからのエリオの頑張っている姿を見てきた読者としてはやるせないものがあります。だからこそそんな中で、リューシさんが、友人に止められて迷いながらもエリオのことを「友達」だと言ってくれたこと、ぎこちなかった二人の関係が時の中でゆっくりと溶けるように繋がっていったことが、なんだか凄く嬉しいのでした。
そんな感じにこの一冊は、エリオがもう一度大きな一歩を踏み出して、青春女になる物語。そしてそのクライマックスに当たる、学園祭ライブのシーンが本当に素晴らしかったです。祭の中で見え隠れしていたたくさんの人の影。『引力』をテーマにしたその祭の最大のイベントで、引きあう者たちが一同に介したときに起こる出来事。このシリーズのオールスターで人と人とが繋がり合い、そして始まったステージ。ここでエリオに起きた特別なことは、正直余りにも出来すぎたことではあります。でも、丹羽くんと出会って彼女がマイナスのスタートから一歩ずつ歩んできた道を、そんな彼女の周りにいた人たちの思いと繋がりを、そしてその繋がりが引力の元に魔法みたいに輝いた瞬間の奇跡を見て、ステージから粒子を振りまくその姿に特別な想いを抱かないわけがないと思うのです。
沢山の人がいて、楽しいこともつらいこともあって、それぞれに生きる当たり前の毎日。その中で、何かに引き寄せられた緩やかな繋がりが、別の繋がりに影響を与えたりして、何気ない日常の中が素晴らしい日常になる。入間人間の青春群像劇で描かれていることはいつだって変わらなくて、でもやっぱりこの感覚というものが、私に取っては本当に特別なものなのだと強く感じます。読み終わって思わず、「素晴らしきかな人生!」という優しい気持ちなれるような一冊でした。
ちなみに、多摩湖さんと黄鶏くんが鬱陶しいバカップル具合を見せつけていたり、有名歌手として登場する二条オワリがおそらく「六百六十円の事情」のビートルズねーちゃんだったりと、他作品とのリンクが今まで以上に目立っていた感じ。ファンとしてはこういうのもたまらないなと思うと同時に、色々な人が色々なところで繋がって、それぞれの物語を作っていく感じが入間作品らしいなと思ったりもしました。