シンデレラガールズに至る物語 -TVアニメ アイドルマスターシンデレラガールズ感想-

何度目かの万策尽きたを乗り越えてようやく最終回を迎えたデレアニですが、素晴らしかった、素晴らしかったしできることはやり尽くしたんだろうということもとても良く伝わってくるんだけれど、ただそれでも色々と言いたい事はあるんだ……! という感じで、まあみんな欲張りなんだなって思う作品でした。でも本当に良かったのは間違いなくて、本当に良かっただけにあれもこれももうちょっと……みたいになる、みたいな。

お願い!シンデレラ』に辿り着く物語

物語としては初回で先輩たちが歌っていた『お願い!シンデレラ』を最終回でシンデレラプロジェクトのメンバーたちが歌うまで、要は彼女たちが『Star!!』→『Shine!!』→『お願い!シンデレラ』という過程を歩む物語だったのだと思います。
Star!!』は「誰か魔法で変えてください ガラスの靴に」で『Shine!!』は「捜していたのは12時過ぎの魔法 それはこの自分の靴で今進んでいける勇気でしょう?」で『お願い!シンデレラ』は「夢は夢で終われない」「夢から今目覚めて はじまるよ新たなストーリー描いたら」と歌う曲なので、魔法をかけられてお城にあがったたシンデレラたちが、魔法が溶けたのその先で自分だけの魔法を見つけて、そして進む出すまでの物語であったのだなあと。
じゃあ「お願い!シンデレラ」のその先はというと、それはサービス開始されていつか声がつき、あの最初の曲とともに動き出したデレマスというゲーム自体の歩んだ道、という扱いになっていく、前日譚としてのアニメだったのかなと思います。そう思うと、ゲームでの設定よりも幾分歳相応というか、幼く振られた彼女たちのキャラクターも、色々なものを乗り越えてアイドルとして輝くそこへ至るためのものだったんだろうなと。


大筋はそこなのだろうと思うアニメですが、まあ色々と描こうと欲張りすぎて、結果的に視点がとびとびになった上でNO MAKEの方で回収されたりと色々強引な部分はあったような気も。これはシンデレラプロジェクトの物語である上で、new generationsの物語であり、島村卯月の物語であり、346の先輩アイドルの物語であり、武内Pと常務の物語でもあって、そこにカメオでもいいのでキャラクターをどんどん出してというのを全部載せにしようとして、あれだけのパワーをかけても全てを100%では捌ききれなかった感じ、というか。
とはいえ灰かぶりたちがおねシンに至る物語であったのは間違いないと思っていて、そこで大きなキーワードになっていたのが『魔法』と『冒険』なのかなと思います。
初めはただかけられていただけの魔法。それだけでは進めなくなった時に、自分は何をしたかったのか、どこへ進もうというのか、その夢に向き合って、一歩進むための冒険をする。ラブライカの活動を一旦止めても、クローネでの道を探したアーニャもその相方である美波が踏み出した道も。他のCPの子たちが先輩アイドルとの関わりの中で見つけていったものも。
そしてその流れの中で、一番重きをおいて描かれたのはニュージェネの3人、中でも島村卯月の物語でした。トライアドプリムスという可能性に自分の行く道を賭けた渋谷凛と、演劇方面に進むことで自分の枠を広げようとした本田未央。それはまさに他の子たちがやろうとした、次に進むための自分で選び自分の足で踏み出す冒険であって、ただニュージェネ最後の一人である島村卯月にはそれができなかった。

島村卯月の笑顔の魔法

以前にこれを書いた時に島村卯月に感じてたものが、終盤まで来てああやっぱりそうなんだ、間違ってはいなかったなと。自分と周りとの間に一線を引く卯月だから、自分自身が迷わない時にはブレないしとても強くて、その笑顔が凛を、武内Pを変えて、救ってきた。けれど、与えられていた魔法が解けて、自分自身の中に迷いが生じた時に、彼女は「頑張ります」で周囲をシャットアウトして一人で道を見失ってしまう。
彼女自身の中があまりに見えてこないので、彼女は空っぽのようでもあり、どこか恐くもあり、そしてまた天使でもあったのだと思います。それが初めて表に出てくるのが終盤の卯月の物語。1話のスタート地点から、13話のNO MAKEを経て、2期に入ってからずっと溜め込み続けたものが表出する時。
彼女の悩みは、自分が周りのみんなのように輝けるか不安で怖いという、言ってみればありふれたものでした。よくわからないけれどいつだって前向きで笑顔な天使なんてそこにはいなくって、彼女は当たり前に悩み苦しむ17歳の少女でした。そんな、笑顔なんて誰でもできる! と泣いて立ち止まってしまった彼女にぶつかって背中を押して、そして選ばせたのは、彼女の笑顔が特別だったからこそここまで来ることができた凛とプロデューサー。ニュージェネのライブ、魔法が解けたままの状態(=制服姿)で、「愛をこめてずっと歌うよ」と歌う『S(mile)ING!』は、たんなる復活の歌ではなくて、ここで終わってしまうかもしれなかった彼女が、自らの笑顔を自分自身の本当の魔法として、この先もずっと歌い続けていくよという決意の歌。
それを受けての『M@GIC☆』でのシンデレラプロジェクトのセンター島村卯月でなんかもう、感じていた違和感も、見たくなかった島村卯月も、見たかった島村卯月も、全てに応えてくれたなあと、個人的にこのアニメに望んでいたことが満たされてとてもうれしく思いました。

ちなみにですが、そこにたどり着いたあとの島村卯月がどういう位置にいるのかは最終回のMAGIC HOURとNO MAKEでよくわかるので、気になる人は聞けるうちに聞いておくといいと思います。

島村卯月とプロデューサー、島村卯月渋谷凛

あと、卯月の話で気になっていたのは、半ば引きこもるように舞台を去った彼女に対して、凛とプロデューサーが何を感じて、行動したのかということ。
プロデューサーは最初養成所でレッスンをしたいと言った卯月に対して、待っていようとします。ただ、自分自身に不安を抱えた卯月の問題は凛が怒ったように、そうやっていれば解決するものではきっとない。それ以上に、アイドル島村卯月に残された時間は短かった。
アイドルはなりたいと願う多くの子たちの中で、ほんの一握りが表舞台に立てるものなのだと思います。346プロに選ばれるというだけで狭き門だったのに、さらにはそこは常務が人員整理をしようとしているほどアイドル過剰な状態。デビューはしたものの、大きな実績があるわけではなさそうな卯月がああなってしまった場合に、会社としての方針はまあ普通に考えて、常務のいうように切り捨てる、クビにするというものになると思います。代わりはいくらでもいると言ってはあれですが、本当に特別な才能が有るような場合を除いたら、そこで待つような悠長な世界ではないだろうと。
卯月のあれは、本来ならまずは少し時間をおいて、それからちょっとずつ自信を取り戻すように小さな仕事から段階を踏んでいくべきものだったと思います。けれど、それでは間に合わない。プロデューサーの時間をくださいも、もう限界の所まで来ていた。
島村卯月というアイドルにとってニュージェネのあの舞台は、ラストチャンスだったのだと思います。体勢が整ってなかろうが、自分に自信がなかろうが、精神的に追いつめられていようが、あそこに立たなければおしまい。たくさんの夢破れた子たちの屍の上に立って歌っていたのが、その有象無象の夢破れた子たちの仲間になるだけ。島村卯月というアイドルの将来を彼女の気持ち抜きで考えれば、たとえそこでどんな失敗をすることになっても、それはそこに立たないのと一緒だったのだろうと。
だから、凛もプロデューサーも多少強引にでも、卯月をあの場所に連れて行った。でも、純粋にあのステージのことだけを考えたら、今の卯月を出すことで全部が壊れてしまうかもしれないというのはあったと思うのです。プロとして仕事をこなせない状態でステージに上っても、足を引っ張るだけになる可能性はとても高かったはず、それこそ常務が危惧したように。
ただそれでも、3人でステージに上がりたいと望んだ。それは、やっぱり凛とプロデューサーにとっては彼女の笑顔が人生を変えた特別なものだったからに他ならないからだと思います。凛が笑顔なんて誰でもできるという卯月に、怒って泣いたのもその笑顔は誰にでもできないものだと信じてるから。プロデューサーが最後に言葉を尽くしたのもそのところ。彼らにとって、卯月の笑顔は軽くないというか、ある意味神格化されたものであって、だから叱りつけてでも、背中を蹴っ飛ばしてでも、手を引いてでも、なんでもいいからあのステージにはあがってもらわないといけなかった。本人が見失ったアイドル島村卯月の可能性を誰よりも信じていたのはあの二人だったのだから。
とはいいつつ、もちろんあんなことをして卯月が潰れる可能性は相当に高かったはずで、そういうものを乗り越えられた一握りの人だけが立てるのがアイドルのステージだと思うと、やっぱり最終話のライブシーンは特別なものを見ている気持ちになれるのでした。

うづりん……尊い………

そう考えてみるとあの話、結構暑苦しい昭和スポ根的な色合いのある話だったのかなあと思います。特に凛にとって、アイドルとしての自分の始まりの人である卯月の意味合いは特別だったはずで、彼女が信じた島村卯月は、こんなところで終わるような子ではなかったのだろうと。そしてあそこでダメならニュージェネは終わりだというのも、たぶん凛も未央もわかっていたのではないかと思うのです。だって彼女たちは、そうやって去っていった子たちの欠員補充として後からシンデレラプロジェクトに選ばれた3人だったのだから。
あの辺りの会話は怒ったり泣いたり駄々こねたりな二人のやり取りなのですが、割と根底にはどうしてここで諦めんだよ! っていうのがあったりするのかもなあと。そしてそういう意味では、凛の言う3人じゃなくちゃ嫌だという言葉は短期的にはもちろんそうなのだと思うのですが、彼女にとってはニュージェネよりもっと先のことを考えた時に、凛が一人進む道とは全く別の道で、卯月は笑顔で輝いていなければいけなかったのじゃないかなとか。それはある意味卯月のことなど考えていない強烈なエゴであって、ただそれが『S(mile)ING!』のステージに通じて、響きあったというのは、やっぱ特別だと思うのです。
まあ個人的に、あの1話の出会いから始まり、一緒の活動を経てその先にそうやって繋がっていくライバル関係ってめっちゃ萌えませんか! っていう話なのですが。だって今回のことで卯月にとっても凛というのは真に特別な存在になるはずで、同じ道を歩まないだろうことがわかっている二人だからこその、別々の道を行った時にもお互いの心の中にあるお互いを支えるお互いへの想いってそれはもうね!