【小説感想】化石少女と七つの冒険 / 麻耶雄嵩

読み終えた瞬間にやりやがったな!! と叫びたくなるところが麻耶作品の醍醐味ですよね。

正直「化石少女」が何とも言えない感じだったのであまり期待をしていなかった続編だったのですが、あれを下敷きにしてこれを構築されたらもう脱帽です。常識と倫理観は遥か彼方に置き去りに、悪意と死体をエンジンに突き進む学園三角関係ラブストーリー(大嘘)。最低に最高にぶっ壊れた読み心地とトリッキーだけどしっかりしたミステリの組み合わせがまさしくな一冊でした。好き。

名門学園を舞台に、古生物部の暴走気味の部長まりあとそれをたしなめる彰を主人公にした連作ミステリで、学園で毎度のように巻き起こる殺人事件に廃部阻止の実績作りのため首をつっこんで探偵をしたがるまりあに振り回されながら止める彰という構図。ただ、実はまりあの推理は……ということで彰は消火作業に気苦労が絶えないという、まあ要するにキャラ配置的にはハルヒなのですが、前巻のラストであんなことがあったからいったいどうするのかと思えば、普通に続いてる時点でまずびっくりだよという。

そして今作の見どころはその構図そのもの。新しい事件、新しい部員、そしてまりあに起きる変化。外的要因の積み重ねがいったい何を引き起こすのか、美しく組みあがる最悪に喜べるかどうかが、いつものことながら麻耶作品を楽しめるかどうかのラインだと思います。はい、私は大好きです。

それから、前作はまりあのキャラクターに割とこうラノベ外の人がラノベっぽいキャラを書いた時にありがちな違和感があったのですが、そこが大分こなれていて読みやすかった感じもありました。何しろまりあが一番まともなキャラだから、彼女が魅力的に読めるのはせめてもの救いではあるので……。

 

 

 

以下ネタバレあり。

 

 

 

 

まりあの暴走を止めるお付きの人ポジションだった、そしてそれに内心満足していた彰の歯車が狂っていきぶっ壊れるまでの過程を描いた連作ミステリ。彰は前作で罪までを犯したが故に、彼女に探偵の才能があることを自覚させない(=彰の罪に気付かせない)ため、真実に近づく彼女の推理を否定するという特殊なミステリをやっているのですが、スタートからしてひどいその状況がものの見事に破綻していくのが最低のドライブ感がありました。

「彰と同じ、自らが犯した殺人をまりあに明かされる訳にいかない境遇の新入部員」「まりあが彰と関係なく自分自身で勝ち取った大きな成功」「それ故に古生物部の外に求めた関係の殺人事件による破綻」「その間に生まれたまりあと新入部員の親密な関係性」と一つずつピースを集めるかのように、「彰の心地よいポジション」を崩す条件がそろっての最終章。誰が主体かの叙述のトリックが、彼のいたポジションが完全に乗っ取られたことをこれ以上なく鮮やかに示した次の瞬間、提示されるのは最悪の構図が生まれたという事実。全てはこの絵を描くために逆算で構築されていたのかと思うと、悪趣味というかなんというかやりやがったな!! という気持ちにしかならない結末でした。

ここから更に話を続けるのは難しそうな気もしますが、拗れに拗れたこの関係がさらに最悪なツイストを見せるような続編に期待してしまう気持ち、正直あります。