【小説感想】走馬灯のセトリは考えておいて / 柴田勝家

突飛なアイデア文化人類学的なアプローチで迫るSF短編集。

表題作の「走馬灯のセトリは考えておいて」が凄かったです。人々がライフログを残し、それを基に受け答えまで可能な故人のライフキャストが作られるようになった時代。ライフキャスト作成の仕事をしている主人公は、かつてバーチャルアイドルの中の人だった老人から、バーチャルアイドル黄昏キエラのライフキャスト作成、そして彼女が死んだ後のラストライブの依頼を受けて、という話。

「バーチャル」で「アイドル」で「死人」であるという虚飾に虚飾を重ねた存在に、魂の形を見出す祈りのようなセンチメンタリズムが鮮烈でした。バーチャルアイドルの中の人だった彼女がその姿に何を託していたのか、ライフキャスターである主人公の父親にまつわる秘密、全てに虚実が入り混じり、精神性の神秘は剝がされて、生死の境界さえ曖昧になりつつある世界の中で、それでもそこに祈りはあるんだなというか。故人のライフキャストが故人のライフキャストのアイドルとなる空間は、薄皮一枚で虚無の広がる恐らくは正しくないものであって、けれど私たちはそこに祈ってしまう。それは論理的には間違っていると分かっていても、信じることで見えてくる光がある。まさしく、信仰の形をした物語だったと思います。推しという信仰を持つ人に読んでもらいたい短編でした。

他の短編では「クランツマンの秘仏」が最高でした。信仰が対象に質量を生むという、はじめはある種の冗談だった説に取りつかれた東洋美術学者をめぐる異常論文。私が狂った話を大真面目に語るのが好きなのもありますが、第3者の視点である程度の客観性を持って語られるが故の迫力があったと思います。そしてこれも「信仰」が何かを生み出すというアイデアなので、表題作とテーマを同じくしているんだなと。