ビブリア古書堂の事件手帖 〜栞子さんと奇妙な客人たち〜 / 三上延

鎌倉の小さな古本屋「ビブリア古書堂」その店主である栞子と、その店員となった本を読めない体質の大輔が、古書に秘められた物語を明らかにしていくお話です。
静かな雰囲気のある鎌倉という土地、古い本が積み上げられた古びた古書堂、本に囲まれ本を読む黒髪の女性。そんなイメージにぴったりな落ち着いた文章で、古書に秘められた人々の物語を語っていく。もうなんというかそれだけでずるいというか、本が好きな人にはたまらないものがある一冊。表紙イラストのイメージも完璧すぎます。
怪我をして病院に入院していた栞子のところに、祖母の形見であり夏目漱石全集の見てもらいに行った大輔の出会いの話から、それぞれ1冊の古書をテーマにして描かれる連作短編集。本のこと以外だと極端なまでの人見知りなのに、本の話になると途端にしっかりして活き活きと語り始める栞子と、過去のトラウマからか本は読めなくても本は好きでその話を聴きたいと思う大輔。愛情に近いけれど少し違うような二人の関係もそれが少しづつ変わっていく様子も魅力的。
そして本のことになると鋭さを発揮する栞子を安楽椅子探偵に、大輔を語り手にして描かれる古書にまつわる物語。多くの人の手を渡ってきた古い本に込められた想いの数々と、その物語自体、そして現在。そこから色々なものが浮かび上がってくる面白さも良かったです。そしてこの謎解き部分、作品の雰囲気的にも優しく上品なお話になるのかと思っていて、それは間違いはなかったのですが、不意にドキッとさせるような展開があってやられました。特に、1話の大輔と祖母の秘密が明らかになるラストで一気に作品に惹き込まれた感じです。
栞子の本に向ける愛情と彼女の持つ本が招いた事件。そして読書の虫である栞子と本を読めない大輔の関係。栞子のすべてを見越してしまう鋭さがもつ危うさ。いくつかの短編をへて描かれる最後の一編では、それらが刺激的になりすぎないくらいに、けれど業を感じさせるものとして描かれていました。そういうところは全篇通じていて、すごく読んでいてしっくりとくる素敵な作品になっていたと思います。
決して派手な作品ではないのですが、少し地味めなくらいの落ち着いた感じで丁寧に描かれていて、それが作品の雰囲気にとても良くマッチしている一冊でした。この先シリーズ化するのかは分かりませんが、是非また二人のお話を読んでみたいと感じる良い作品だったと思います。