異界兵装 タシュンケ・ウィトコ / 樺薫

異界兵装 タシュンケ・ウィトコ (講談社BOX)

異界兵装 タシュンケ・ウィトコ (講談社BOX)

巨大な馬型ロボット タシュンケ・ウィトコの一人称で描かれる恋物語という一風変わった小説。変な話だと思って読んでいたのですが、あとがきで作者が「アイドルマスターXENOGLOSSIA」のその先を書きたいと言っていて、なるほどと思いました。これはロボットがパイロットの少女に恋をする物語なのだなと。
異界というものが存在する世界、その異界からやってきた巨大な馬型ロボットである『僕』。長らく眠っていた彼が、人型ロボットの襲来という危機に、『彼女』を守るために動き出す。そして、『彼女』が異界から呼び出した兵装は彼を操るための手綱で、というロボットものの王道をひねったような導入。そしてその先も、ロボットアニメ的な、けれどどこか違うような物語が描かれていきます。
異界帰りの美しい天才科学者、お約束な水着回といったコメディ色のある展開に、淡々としているのに過剰なくらいにロマンチックで感傷的な文章は正直ミスマッチ感があるかなと思っていたのですが、僕と彼女の物語になるとその文章がはまってくるような感じ。そこに差し挟まれる七奈美と珊璃という、異界とこちらの世界の二人の少女の物語や、彼女たちの話にでてくるやたらに細かい野球の話は作者らしい感じがして好きです。ただ、この語りの中にどうしてそういう話が出てくるのかと思っていたら、読み進めてそういうことかと思いました。
この作品がどういうものであるのか。それが分かったことで、見え方が変わってくるような何か。しゃべることのできない馬型ロボットと、一人の少女を繋ぐものはそこにあって、表面上に見えるのは種族を超えた愛の物語。けれど、それはどこまでも彼にとって都合の良いだけの世界の映し方かも知れなくて。彼女が彼を馬として見ていたとしても、そう書くべきだからそう書いたかも知れないとか、むしろ全てが彼の見た夢にすぎないのかも知れないとか、そういうことを感じるような、フィルター越しの狭い狭い、どこかいびつな世界を見せられているような感覚。異界を巡る理論も世界の行方も、七奈美と珊璃の関係も、もうひとつ踏み込まれないままに過ぎ去っていくのは、彼という実存にとってそれが大きな意味を持たないから、なのかも知れなくて。ただ、彼がいて、彼女がいて、それで完璧な世界。ここにある実存の形は、たったそれだけ。
そんな彼の語りの向こう側にロボットものの王道のようなストーリーを見ているような、読んでいてすごく不思議な手触りのある物語でした。面白かったとは思わないけれど、読み終えてどこか心に引っかかりを残すような奇妙な作品だったと思います。