【小説感想】はたらく魔王さま! 21 / 和ケ原聡司

 

はたらく魔王さま!21 (電撃文庫)

はたらく魔王さま!21 (電撃文庫)

 

 異世界から日本に流れてきてマグロナルドではたらく魔王様と、やっぱり日本に流れてきてテレアポの仕事をする勇者の庶民派ストーリーもこれにてシリーズ完結大団円。

巻を重ねるごとにスケールが広がっていくエンテ・イスラ側のお話にこれ本当に畳めるのかなと思っていたのですが、450ページのボリュームで、かなり力技ではありますがまとめてきたので安心しました。その後の日常と神討ちの話がパラレルで展開されるのは、読んでいる方とすればかなり混乱もあったのですが、でも魔王と勇者の庶民派な日常があってのこのシリーズで、最終巻ではエピローグだけとなったらそれは違うのだろうなと。

なんにしても、あの状況からやっぱりこうでなくちゃっという結末に至るまで、山積する課題をちゃんとひとつずつ片付けていくのが、ずっと丁寧だったこのシリーズらしいなと思います。

そう、過剰なまでに真摯で丁寧なのが良くも悪くもこのシリーズだったのかなと。異世界からきた魔王と勇者のちょっとずれた日常コメディの面白さがこの作品の魅力で、でもシリーズ化するに当たって彼と彼女が仲良くするには、その異世界で魔王が攻めてきて勇者が立ち向かったという出来事をちゃんと精算する必要がある。でもお話的にはそこばかりやってたらちょっと違う作品になってしまうはずで。

それを小さなところから向き合い始め、アラス・ラムスという子は鎹を地で行く存在が現れ、エンテ・イスラの在り方そのものをひっくり返すようなスケールの設定と世界中を巻き込んだ物語となり、巻き込んでしまった人間世界の少女のことにも向き合いながら、彼らが日本で過ごす日常は守るべきものとして最後まで描かれ続けて、こじれた魔王の人間関係も整理して、最終的にセフィラや神討ちという世界規模のお話に決着をつけながら、魔王と勇者の在り方を定義し直してこれからも続く日常を描き出して見せたのだから、それはもう大変なことだと。

ギャグ時空でなあなあになってもおかしくないものに最後まで向き合い続けて、そしてそれがシリーズの面白さになっていたのだから、不思議な作品だったと思います。世界の命運をかけて闘う人たちなのに圧倒的なご近所感が無理なく両立しているキャラクターの魅力か、結構なシリアスになっても、ずっと優しさというか、柔らかさがあるのが良かったのかなあと。

 

そしてこの結末、圧倒的に千穂ちゃん総取りって感じでは……? 魔王に惚れて勇者と仲良しで天使と戦いエンテ・イスラの有力者の覚えもめでたい作中で一番チートな女子高生だった佐々木千穂さんですが、最終的に己の望みうるもの全てを手に入れている感じが流石やなと思いました。守りたかった日常のことも、好きだった真奥のことも、足を踏み入れた異世界のことも、日本での将来のことも、何一つ逃しはしないという意思を感じる。だって、恵美と真奥とアラス・ラムスと囲む食卓は絶対に守りたいけど、真奥の一番は絶対に自分だから、恵美が真奥を好きなのは知ってるけど側にいるのだけは許してあげるね、みたいなムーブですよこれ。強い。