メロディ・リリック・アイドル・マジック / 石川博品

これは良かった。良いものだった。
国民的アイドルグループ・LEDに反旗を翻す女子高生アイドルたちがしのぎを削る沖津区を舞台に、アイドルを始めた少女たちと、彼女たちのマネージャになった少年の物語。ですが、ちょっとこの独特の雰囲気をなんと表せば良いのか。
まず、この作品のアイドルってLEDという洗練された、反面作られたものでもあるメジャーとしてのアイドルがあって、それに対して反目するアイドルが吹き溜まる沖津区なわけです。なのでそこに感じるのは地下アイドル感というかインディー魂というか、ぶっちゃけパンクでロックンロール。ダイブしてモッシュしてリフトして熱狂! みたいなライブがいきなりぶっこまれるは、アイドルたちは歌って踊って客を殴ってみたいな。下手でも良い! やるかやらないかだ! 熱量! 反体制! LEDは死ね! みたいな。まさにパンク。
流石にアイドルだからかラノベレーベルだからかセックスドラッグロックンロールにはならないのですが(アコはチョコをキメていた気がしますが)、この限られた空間、限られた時間、その中で何かが爆発する青春の熱狂みたいな手触りが、石川博品らしい少年少女の描写と相まって本当に素晴らしいです。拙いとかプロフェッショナルじゃないとかそういうことではない、合理的かどうかも関係ない、井の中の蛙でも良い、むしろ井の中だから良い、そういう感じ。先輩を見てきてアイドルをやろうとしたアーシャがいて、過去に闇を抱えているアコがいて、アコの歌でまさしく沼に落ちてマネージャになったナズマがいて、プロデューサーを受けた国速がいて、何かがどこかで触れれば火がつくような、そして実際火がついた、そういう刹那の時間。その中で、アイドルになるということ。

やるかやらないか、それだけだ。
下火はずっとアイドルを夢見ていた。だが百合香のいうとおり、いますぐやればよかったのだ。やらなきゃアイドルじゃないし、やってしまえばアイドルだ。

この青春にしか許されない、青春の全てであるような感じ。少年がいて少女がいて、彼女たちはこの時アイドルだった、そういう物語でした。小説的には大分アンバランスな感じがするのですが、その辺りも含めて、ああ青春だなと思うような一冊。
あとそんな熱狂の中にあっても意外とみんな外の世界、ここを出た後のことは考えているフシがあるのも絶妙にリアル感があって面白かったです。そして外の世界を彼ら彼女らが否定しても、作品としては否定することはないですし。
そしてこのタイトル。「メロディ・リリック・アイドル・マジック」。まさにそういう話だったなあと。素晴らしかったです。