パンツあたためますか? / 石山雄規

 

パンツあたためますか? (角川スニーカー文庫)

パンツあたためますか? (角川スニーカー文庫)

 

「なにがそんなに辛いんだ」

「……分からないんです」

「なにかが嫌で逃げてきたんだろ。なにがそんなに嫌なんだ」

「……分かんないよ」

彼女は今にも泣き出しそうだった。

 環境が悪いわけでも、人間関係が悪いわけでも、病気があるわけでもない。何か原因があるならそのせいにすることはできて、でも何かが悪いわけではない。ただ、何かが欠けていて、ふつうに生きられなくて、逃げ出して、不安で、寂しくて、満たされなくて、幸せになりたくて、辛くて辛くて、ダメだと思うほどダメになって。とどのつまりは自分のことが大嫌いで、そんな自分のことが好きで仕方ない。

滝本竜彦が推薦文を寄せる、20歳そこそこの作者によるデビュー作は、まさに「NHKにようこそ!」の2017年度版リミックス。漠然とした生き辛さというか、不安というか、この青春の感覚は、時代を超えて普遍なんだなと改めて思うような一冊でした。そういえば滝本竜彦も先達から連なる文脈の中で語られる人だったなあと。

いやでもこう、何が頭を抱えるかって、あれから10年以上の時がたっても自分はこういう話が死にそうによく分かるし、本当に好きなんですよね。単に好みの話だけだったら三つ子の魂何とやらですが、これはなんというか、自らの成長の無さが真正面から突き刺さる感じで、お前この10年何して生きてきたの感がちょっと……。

ヒロインの真央はある日突然主人公の部屋に侵入しパンツをあさっていた自称ストーカーの美少女。物語の軸は彼女と主人公の関係で、それは当たり前な世界から弾かれたダメな人間同士のどこか共依存じみた関係になっていって。足りないものを底が抜けたまま注ぎ合うような関係は、温くてべったりと幸せで、光がさしたようでもその先にはきっと何もない。そういうのは、夢があるからどうにかなるものでも、周りに人がいればどうにかなるものでもなくって、もう一度学校に行こうとした真央が扉の前で立ちすくむシーンなんてもう刺さるものがあって。

だから、やり方はクズでダメで最低でぐしゃぐしゃに格好悪くても、この結末は正しい選択をしたんじゃないかと思います。鏡に写すようにそっくりな2人が傷を舐めあうだけだった自分たちの関係を、一度仕切って1人と1人としてもう一度向き合えるように。世界はだらだらと続いていって、それでも変わることはできるんだと、そういう希望を感じさせる終わり方でした。

小説として出来が良いかと言われるとどうかなと思うところも多いのですが、こういう話が好きな人はとりあえず手にとって、それと若い子が読んで心に突き刺さればいいと思います。抜けない棘になるから。あと、タイトルは「マイナスイオン・オレンジ」で良かったと思いますが、それだと手に取ってもらえないと考えたのかなあとか。

それから、私はNHKの岬ちゃんが好きだったのだから、真央が嫌いなわけ無いじゃんっていうね。もう本当にね、勘弁してほしいですよね!!