超人計画 / 滝本竜彦

超人計画 (角川文庫)

超人計画 (角川文庫)

人が一生懸命心の奥底に埋めたものを掘り起こされるような感覚。
エッセイと小説が入り混じって、どこまでフィクションでどこまでノンフィクションだかわからないものになっていますが、これは私小説だと思います。NHKにようこそ!という作品がいかに作者自身の身を削って作られているのかが良くわかります。そして、あちらに残ったフィクションだからと言って片付けられる逃げ道が、こちらには全く完膚なきまでにない。少し違いますが、佐藤が滝本竜彦で、岬が脳内彼女であるレイというポジションかなぁと思います。
とにかく露悪を超えた露悪で、ルサンチマンを吐き出して世界が悪い!と叫んだり、冷静になって自分が悪いと凹んだりをジェットコースターのように繰り返し、トラウマを書き出し、身を削ったネタを作り、諦めの境地と諦めきれない自分の間をうろうろ。話は超人になろう!とかリアル彼女を作ろう!とか小説を書こう!とか一応の目的を目指して、脳内彼女レイ(もちろん綾波)のアドバイスが入りつつ進みますが、なんとまぁ、このどうしようもないことか。もはや痛いとかそういう次元ではない。深刻。
ただ、これが笑えない。笑うに笑えない。ダメでダメでどうしようもないとわかってはいる、感じ方、考え方、思考パターンにシンパシーを感じるどころか、シンクロ率が高すぎるのです。それこそ僕らのリアルはここにあった!と叫んでもいいくらいに。印象に残った文章を引用したら、両手で効かないほどに。もちろん自分とは全然違うことをしてる訳なのですが、それでも引きずり込まれるこの感覚。そして、色々と試行錯誤し、思考錯誤し、その挙句にたどり着くのが救われないという現実だと言うのが辛すぎます。自分が今立っている道の先には、何も無いどころか崖が待っていると告げられてしまってるようなものです。
この人の特徴は、ダメ人間である自分に気付いていて、なおかつそれを客観視できるだけの常識と冷静さを併せ持ってしまっていることなのだと思います。だからこそこんなものが書けるのでしょうが。ダメな自分と言うものを理論武装で肯定して開き直ることも、自分自身が壊れてしまうこともできずに、ダメな自分と向かい合って何とかしようともがいてもがいてそれでもどうにもならない感じ。
こういうダメな自分をネタにする人や、こういう思考回路を持っている人は結構いると思うのですが、これをきっちり面白痛い文章としてまとめてしまえる人はそうそういないのではないかと思います。確かにグダグダで迷走を重ねる文章なのですが、それでも肌感覚で伝わるヤバさがありました。
今は断筆中ですが、いつかこの作家がこの道の果てに救いを見せてくれること祈ります。何があっても玉川上水で自殺とかしないで欲しいものです。
満足度:A+