魔法少女サン&ムーン ~推定62歳~ / サメマチオ

 

魔法少女サン&ムーン~推定62歳~ (バンブーコミックス)

魔法少女サン&ムーン~推定62歳~ (バンブーコミックス)

 

ライフイズビューティフル 

それが答えだ

末期ガンの告白から始まるという異色すぎる魔法少女モノは、実のところ突飛に見える要素を組み合わせて人生は美しいと謳うような、そんな一冊でした。

かつて子供の頃魔法のコンパクトを拾って魔法少女となったかず子と芳江。けれど、この作品における大事なところは変身して敵を倒すのとは別にあります。それは、2人が同時にコンパクトを開かなければ変身できないことと、変身が解除されて戻るのは、コンパクトに記憶された最初に変身した時点の身体だということ。コンパクトの記憶はある程度の期間もつから、それはつまり2人で一定周期で変身し続ければ永遠を生きられる。だからこれは、いつまでも成長しない自分たちの肉体からそれに気がついた2人の人生の物語。

流れていく周りの時間から切り離され、人の世に背を向けて2人だけで生きる百合的な永遠は、けれど長くは続かなくて。いつかは欧州で魔女になろうとうそぶく彼女たちにはそれでも関わる人達が居て、1人が恋に落ちて、それを聞いた1人は姿を消して、あっけなく動き出す時間。それが、巡り巡っていつしかお互いに1人になり、歳を重ね老婆になって、ガンに侵され初孫の顔を見るまではという理由で、再び2人だけの永遠を求める。一度はそれを手放した魔法少女たちにもう一度訪れる、永遠という人生のロスタイム。それは同時に、周りの時間から外れて生き続けるか、どこかで1人の人生を終わらせるか、その二択に向き合い続けるということ。

2人の関係と、周囲の人たちとの関係。非日常と言うにはあまりに強い生活感と、シリアスにもギャグにも偏らないバランス。踏み込みすぎない心理描写でどこか俯瞰するような目線で描かれているものは、まさに進み続ける時間の中を生きていくことなのだと感じました。出会いがあって、別れがあって、始まりがあって、いつか終わりが来る。残していくものがあって、失われるものもある。彼女たちが選んだ、2人の最後の時間。あっけなく訪れる終わりと、それでも繋がっていくもの。だからこその「時を超える真実」。

道具立ては飛び道具っぽく出落ち感もあるのですが、それでしか作れないシチュエーションから2人の少女だった老婆の人生を描き、人が生きていくということを静かに讃えるような作品だったと思います。このスタンスというか、語り口というか、作品の持っている距離感みたいなものがとても好きな一冊でした。読んで良かった。素晴らしかったです。