【小説感想】魔法少女育成計画「黒」 / 遠藤浅蜊

 

 近頃は魔法の国の世知辛さや怪しげな人体実験に不穏な計画、ヤクザの抗争かと思うような派閥争いが全面に出てきていたまほいくですが、この巻は魔法少女が集められた梅見崎中学特別学級のお話に。正しい魔法少女の育成のために魔法の国が肝いりで開設したというその学級で描かれるのは、集められた15人の青春模様……で済むわけがないのですが、この巻ではまだ大きな動きはありません。ただ、嫌な予感というか、不穏な気配というか、この先碌なことにならないのだけはひしひしと伝わってくるのが、最高にまほいくを読んでいるという感じがして楽しいです。

だって、魔法少女学級自体がプク・プックの怪しげな遺産をオスク派が掠め取ったもので、そこにピティ・フレデリカが記憶を封じられた囚人を送り込んできている時点でアレな感じしかないし、初代ラピス・ラズリーヌも手を出していて、スノーホワイトが監視してるってもう役満ですよ。絶対に碌でもない秘密があり、ヤバい感じの思惑がぶつかり合い、次巻で誰も生き残らなかったとしても不思議ではない状況。そして、それを確信に変えるだけの積み重ねが、このシリーズにはあります。

この学級、事情を知っている魔法少女たちと、何も知らされてない魔法少女たちがそれぞれどこかしらの勢力の推薦を受けて入学しているのですが、ギスギスしたクラス内人間関係の中学生らしさと、それぞれが知る情報格差による噛み合わない会話、背後に蠢く者たちの代理戦争としての側面、そして記憶を封じられたたカナのズレた思考が折り重なってなんともカオスです。でも、それらが別々の話になるのではなく、学級という閉じた空間の中でちゃんと混ざり合っているので変な面白さがあります。そしてそんな混沌の坩堝で、明らかに仕向けられた事故をきっかけにクラスの結束が生まれ始め、なんとなく中学生青春もの的な空気が生まれて次巻へ引いているだけに、余計にこの後落とされるんじゃないかという、ジェットコースターの頂上に着いたような感覚がありました。

あと、vsホムクルス戦がかつての強敵たちを象った相手が次々と現れるボスラッシュ感があって、シリーズ読者的には大変楽しかったです。いやまあ、生徒達的には何も楽しくないでしょうが!