【小説感想】medium 霊媒探偵 城塚翡翠 / 相沢沙呼

 

medium 霊媒探偵城塚翡翠

medium 霊媒探偵城塚翡翠

 

 警察に協力して数々の事件にも関わってきた推理作家の香月史郎は、ある事件をきっかけに自称霊媒師の女性、城塚翡翠と出会います。彼女は霊媒として死者の声を聞けると言いますが、そこから犯人は推定できても、一切の証拠能力はない。故に、香月は彼女の言葉を論理に落とし込み、推理を構築する必要があるという設定でいくつかの事件を描いていくミステリです。

ゴールは見えているのにそこへのたどり着き方わからないという、倒叙ミステリ的な楽しみ方に、翡翠が可能な霊視という特殊ルール、そして彼女の浮世離れしているようでその実初心なお嬢様なところが魅力なのですが、まあ、それだけならこんな、「すべてが、伏線」なんて帯で売り出されて絶賛されてはいない訳で。

これ以上は何を言ってもネタバレなので下に書きますが、まさに、鮮やかな奇術でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやまあ、事件の合間に挟まれる連続殺人の犯人はなんとなく予想がつきますし、翡翠はあまりにもあざとくて疑ってくれと言わんばかりですし、そこは構えてたつもりではあったんですよ。でもですね、そこを見事に誘導していくのが奇術の奇術たる所以なのだろうなと。

虚実の混ざった言葉や事前の調査、相手の注意の誘導など、手品の手法で超能力があるかのように見せる。そんな自称霊能者の話なんて枚挙に暇がないし、翡翠のことも最初は確かに疑っていたはずなのに、読んでいると香月と一緒にいつの間にか完全に翡翠を信じているのが最高のトリックだと思います。事件解決への誘導の巧みさもありますが、あざとさも度を越すとこれはこれで本当なのかも知れないって思うものなんだなと。あれよあれよで気付けば前提を上書きされて、翡翠のことも彼女の霊視も当然になり、その設定が揺らいでいても流しちゃうんだから見事な奇術というか、詐術という他ありません。

そしてそこから始まるのは、霊能力なんてなかったという前提での再証明。霊視の結果からロジックを逆算した解答とは別に、もっとスマートでロジカルな解答が、最初の情報で導けていたというイレギュラーな多重解決ミステリ。これがもう鮮やかで、翡翠の存在そのものと一緒に、これまで読んできた3つの事件が全く形を変えて再構築されていくのがいっそ快感です。そして浮かび上がるのは、霊能力なんてどこにもない、明らかに最初の解答よりシンプルで無駄のない事実なのだから恐れ入ります。

そんな感じで犯人が如何にクソ野郎であるのかと、それを嘲笑う翡翠の真の顔を知ったところでのエピローグ。個人的には身も蓋もなく後味悪く終わるのも好きなので、ここまで書いちゃうのはどうかとも思うのですが、明示されない真実はただ城塚翡翠という詐欺師の心の内のみで、それは今となって捨てられた遊園地のチケットと共に読者に委ねられるというのが、最後まで心憎い一冊でした。最初から最後まで隙のない、とにもかくにも抜群に完成度の高いミステリだったと思います。