【小説感想】転生! 太宰治 2 芥川賞が、ほしいのです / 佐藤友哉

 

転生! 太宰治 2 芥川賞が、ほしいのです (星海社FICTIONS)

転生! 太宰治 2 芥川賞が、ほしいのです (星海社FICTIONS)

 

 1巻は太宰治が現代に蘇って、時代的なギャップに対してどういう反応を取るのかというifが、やたらとクオリティの高い文体模写によるおもしろかなしい道化っぷりと共に描かれていくのが楽しかったのですが、2巻にきて急激に地獄みが増してまいりした。というか、これは相当な地獄では……?

かつて自分が候補作になって落とされた芥川賞に拘る太宰が、女子高生地下アイドルをプロデュースして小説家に仕立てていく。それでもって、この女子高生には才能があった。あってしまったばかりに、2人の関係は拗れていきます。

道化の仮面を外せぬままに、コンプレックスと執着、安定しないメンタル、極端から極端へ振れる自己評価、恨み妬み、そして他人への無理解。芥川賞を目指して女を裏切り、心中未遂(転生後二回目)を起こして、現代という時代を流れていく太宰。どうしようもないのだけれど、どうにも気になってしまうのが佐藤友哉/太宰治たる所以というか。そして1巻と比べると、相変わらずの文体模写ですが、かなりユヤタン比率が上がっているように思います。

救えないディスコミュニケーションの積み重なりがもたらしたものが爆発するラストシーンなんてもう笑っちゃうようなひどい状況。それでも、あの場にいる人間は誰も彼も本当に切実で、人生の分水嶺に立っているというのが、もはや喜劇めいていて、なんともはや。そしてそこに至らしめた、絡み合った感情というか、絡まなかった故の感情みたいなものがあまりにも地獄めいていて、思わずドン引きするような一冊でした。

凄いところで次の巻へ続いたのですが、この先どっちに転んでも碌なことになる予感が、しない!

【小説感想】東京タワー・レストラン / 神西亜樹

 

東京タワー・レストラン (新潮文庫nex)

東京タワー・レストラン (新潮文庫nex)

 

 お客様が心に抱えたトラウマを思い出のメニューで癒していく心温まるお料理小説と言われれば、ライト文芸系流行のお店屋さん×ちょっといい話的な路線だと思うじゃないですか。帯やあらすじを良く読むちょっと怪しい文言が含まれているけれど、まあ全体的な雰囲気はまさにそういう感じですし、確かに間違っていない。スタート地点とゴール地点は。

という訳で、近未来のコロニーと化した東京タワーの中、人気のないレストランエリア(諸事情で封鎖されている)で目覚めた記憶喪失の青年と、コックを名乗る牛人間(食用クローン牛が出力エラーで人型になった)が、ビストロヤクザ(とは?)の査察を切り抜けるために料理に挑むお話。ちなみに近未来東京タワーの料理はすべてゼリー的なもので機械から出力されます。味付けはマシンの操作次第。うーん、ディストピア

そんな感じで、屋根裏に引きこもるタイムトラベラーだとか、腹の虫(地球外生命体)に寄生された星屑屋から逃げてきた少女だとかと、まあなんやかんやでカプレーゼだったりポタージュだったりを困難に直面しながら作っていきます。この辺りの設定、キャラクター、ギミックが次から次へと大変に胡乱で、しかもそれがちょっと勿体ぶった文章で流れるように語られるのが非常にツボです。最高のほら話を読んでいる感じが素晴らしい。めっちゃ楽しい。

とはいえ、これだけだと心温まるお料理小説を求めて手にとった人がなんじゃこりゃとなっていないか若干の不安があります。でも、特盛になったすこし不思議とこんがらがったタイムトラベルミステリ的仕掛けを乗り切れば、ちゃんと優しさあふれる良い話なんです、これ。

レストランという居場所を守るため、意外な繋がりがあるものの、それぞれの事情と傷を抱えた全然別の人たちの気持ちが、一皿のナポリタンに集約されていく。妙ちくりんなものを積み重ねた上で、子どもたちの真っ直ぐな頑張りと、大人たちの諦めない思いと優しさが、溶かすようにトラウマを癒やしていくような、そういうお話。

読み終わった時には東京タワー・レストランという場所が愛すべき場所に思えてくる、大変に好みで、大変に美味しい一冊でした。面白かった!

【小説感想】宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー

 

宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー

宮内悠介リクエスト! 博奕のアンソロジー

 

 宮内悠介が博奕をテーマに読みたい作家9人に執筆をお願い、本人の作品と合わせて10篇を収録したアンソロジー本。流石のビッグネーム揃いということで、アベレージの高い短編集になっていました。

博奕と言うとリスクとリターンというか、一か八かの勝負! みたいなイメージが強かったのですが、全て手を尽くしてなお結論が出ない時、天にというか、神にすべてを任せるという側面があるのだなと、そういうシチュエーションを描いた作品が多かったことで感じました。確かにそこには平等があって、でもそこをどう料理するかで作家ごとの色が出るのも面白かったです。

特に面白かったのは山田正紀「開場賭博」。江戸無血開城における勝・西郷会談が、まさに結論が出ない交渉事を天に任せるという意味でチンチロリンによって行われるというぶっ飛び話なのですが、これがめちゃくちゃ面白かったです。立場を背負った建前と個人としての本音の隙間、いかさまの絡んだ勝負師たちの駆け引きが熱い。

それから星野智幸「小相撲」は、小相撲と呼ばれる賭相撲を題材にしたもの。力士たちの勝敗には観客たちの人生の選択が賭けられていて、賭けた方はそこに何を見るのか。真剣勝負とは別のところに立ち上がる、そこにどんなドラマを見せるか、どんなドラマを見せるのかという力士と観客の真剣勝負。題材は相撲なのですが、あ、これプロレスの話なんだと感じました。好き。

あと梓崎優「獅子の町の夜」はシンガポールを舞台にしたある老婦人の人生の賭けを描いたもの。「スプリング・ハズ・カム」を読んだときも思いましたが、本当にこういう洒落た短編を書かせたら素晴らしいなあと。

2月のライブ/イベント感想

普通に働きながらでもこの数行くのは可能なんだなって。

 

2/2 フライングドッグ10周年記念LIVE -犬フェス!- @ 武蔵野の森総合スポーツプラザ メインアリーナ

あんなに一緒だったのに

あんなに一緒だったのに

 

 Victor時代を含めたフライングドッグ大祝賀祭みたいなライブで、古くからのオタクほど致死率が高いそれはもう凄いものだったんですけど、この日の私の注目点は、See-Sawが見られるかという一点にあったと言っても過言ではなく。
 梶浦由記石川智晶、もうね、同じイベントに出たことが長い長い間なかったんですよ。というかSee-Sawの活動停止以降は絡みすらなかった。そこに何の事情があったかなかったか、それはわからないけれど、あの梶浦由記の集大成だったKajiFesの時ですら見に来てはいても出演はなかった。
でもね、フリーになって単独にRevoがシクレで来るみたいな事もあって、そしてこの犬フェス共演。あれなんかいい機運なんじゃね? これは見られるんじゃね?? と思いながらも、いや期待してはいけないと思って現地に向かったのです。石川智晶が「アンインストール」を歌った後、暗転したステージにキーボードが運ばれてきたのを見て、もうその時点で放心ですよね。
See-Sawの、梶浦由記石川智晶による「あんなに一緒だったのに」。初めてSee-Sawが見られました。See-Sawの音楽をライブで聞けました。「キーボード! See-Saw梶浦由記!」と最後に石川智晶が紹介した時に、ああずっと追いかけてきて良かったなと、生きていれば良いことあるんだなと、そんなふうに思いました。

 

2/10 駒形友梨 1st Live ~starting in the 〔CORE〕~ @ 新宿BLAZE

〔CORE〕

〔CORE〕

 

 駒形友梨という人を初めて見たのはサンホラのNeinで、その後アイマスミリオンのライブでも見て、だれらじも聞き続けて、ずっと歌を好きだと言っていた人がついにCDデビューして、そして1stライブ。感慨深いものがあると共に、だれらじの印象が強くて近所の面白いお姉さんの晴れ舞台を見に来たような感覚もあった1stライブ。
最高に良い顔をしてのびのびと歌うべーせんを見れて、ああ本当に良かったなと思いました。あれは、夢を叶えた人の顔だった。

 

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 6thLIVE MERRY-GO-ROUNDOME!!! アンコール上映会 2/16・17・24

THE IDOLM@STER CINDERELLA MATER 恋が咲く季節

THE IDOLM@STER CINDERELLA MATER 恋が咲く季節

 

 まず、アイマスライブは感情が閾値を振り切って大変なことになりがちで、しかもブルーレイ発売が遅いので、この時期にこういう上映会をしてくれるのはとても良いなあと思います。あと、会場が大きいだけに現地とLVは全然見え方が違って新しい発見もありますし、キャストのトークイベント付きでライブの話が聞けるのは良い試みだと思いました。映画館、満員になっていましたし、今後も続けてほしいなと。
さて、私はメラド両日と、ナゴド二日目の途中からを見たのですが、本当に良いライブだったなという再確認と、ようやく感情が消化されたことで受け止められたものが2つ。
まずはメラドの「ドレミファクトリー」、現地では半ば思考が止まっていたんですけど、スクリーンにアップで笑顔で踊るメンバーを見てたらめっちゃ涙が出てきて本当にね、U149がですね、好きなんですよね……。ああ、あの子達がこんなに楽しそうに歌って踊ってるというのが、ようやく実感として追いついてきたというか。
そしてメラドの「流れ星キセキ~always」。現地で消化できなかった大橋彩香/島村卯月を、もう一度受け止めないと7thを迎えられないと思って、別のライブから無理やりイベ回しをして見たのですけどね、いや回してよかった。現地では「流れ星キセキ」までは耐えて、「always」で死んでしまったのですが、今回は「流れ星キセキ」で笑顔の大橋彩香が歌体出した瞬間に号泣でした。何かもう全てがあかんかった。そこまでの緊張感のある流れからの、NGsとその真ん中で歌う大橋彩香の安心感というか、ホッとする感じすごくない!? ですか? そしてもう一つ、アニメを重ねて見る曲だからこそ、こんなに笑顔でこの曲を歌えていることにほっとするものがあるのだなと。良かったな、良かったなと。元気で、笑顔で、今この立派な舞台に立っているんだなと噛みしめるこの感じ。「always」の「私に出会ってくれてありがとう」に対して、あの日現地で抱いた感情の答えは「こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう」なんだろうと思いました。そう思えただけでも、このLVを見に行けて本当に良かったです。

 


BanG Dream! 7th☆LIVE Roselia 「Hitze」2/21 @ LV

Safe and Sound[Blu-ray付生産限定盤]

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 Roseliaは幕張が遠藤ゆりかラストというテーマを内包したあまりにも鬼気迫るライブだったもので、そこから明坂聡美も抜けてメンバーを変えて続けていくことには難しさがあったと思うのです。でも、この武道館に向けて仕上げてきたなという印象でした。
普通に、普通のRoseliaのライブを届けられるところまで持ってきたこと。そして軌跡や陽だまりのような、あの時の特別になりかねない曲を、ずっと続いている「Roselia」の曲として演奏すること。凄く大きな意味のあるライブだったなと思います。

 

BanG Dream! 7th☆LIVE RAISE A SUILEN 「Genesis」2/22 @ 日本武道館


BanG Dream! 7th☆LIVE Poppin’Party 「Jumpin' Music♪」2/23 @ 日本武道館

Jumpin'[Blu-ray付生産限定盤]

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 これだけ演奏できるようになったのだから、もっとフルバンドでの演奏を増やしてほしいというか、へごにドラムを叩いてほしいという気持ちはまだあるのですが、でもこれがポピパのライブの形なんだろうなと。バンド演奏も音源を使ってのキャラソンも寸劇も全部含めて、Poppin'Partyの魅力を伝えるためのものなのかなと思います。
その結果としてもうとにかく全編ずっと楽しそうなんですよね。演者もファンも凄く楽しそうで、このハッピーさこそがポピパなのだろうと。前回の武道館であった追い込まれた空気がすっかり抜けていたのもあって、グダりがちなMCも含め、この空気感は他の2バンドにはないものだと思いました。
あと、こんなに楽しそうなへごはなかなか他の現場では見れないので、ポピパは仲が良いんだろうなあと。

 

2/24 Shiena Nishizawa LIVE 2019 ”EXTREME” 2/24 @ 渋谷WWWX

Gray Blaze

Gray Blaze

 

 幸奏陣営はなんというか、こう、自ら難しい道に進んでいるというか、アニソンシンガーとしてのモデルコースを選ばないで、そこ本当に道あるの? と思うような方向性を目指している感じがあります。それで結果、ライブが先鋭化して荒れるのもまあ分かるというか、そして結局リフト、サーフ、ダイブを禁止にすることも試行錯誤なのかなとも思うのだけれど、もっと上手くやる方法があったんじゃないかな、この先大丈夫なのかなという気持ちもあって。
で、前説で社長がその辺の禁止の話と、これでやっぱりやると言うなら安全が保証できないからもう次はできないとまで言って始まるのも、なんというかなんというかではあるのですが、ライブが始まれば今までで最強の西沢幸奏をおみまいされる訳で、やっぱついていかなきゃな!! って思うのです。それくらい今回のバンドスタイルでのライブは凄かった。ギターを掻き鳴らして轟音の中で歌う声の伸びとエモーショナルさ、ここ数年の成長幅は本当に半端ないなと思います。盛り上がる曲はもう安定の楽しさなんですが、今回はバンド編成でやった「帰還」のエモさが凄かったです。こんな歌が歌えるのかと、本当にあれは心を揺らす歌でした。
あと荒れなくなった(サークルモッシュくらいまで)ので、前の方に出ても死ななくなったのも有難かったです。最初は後方の大人しく見るエリアにいたのですが、4曲目に「Glay Braze」のイントロが来た瞬間に我慢できなくなったので前方へ。おかげで首と腰が死にましたが! アホみたいに楽しかったから問題なし!

【マンガ感想】小林さんちのメイドラゴン 8 / クール教信者

 

 カンナと父親を巡るどシリアスな長編という意外な内容となっている第8巻。元々随所に重さを隠さない作品ではありましたが、普段は日常系の作品が劇場版ではシリアスになるような感じの1冊という感じでした。

とはいえ、やっていることは変わらないのだと思います。どういう生きるのか、誰と生きるのか、何を選ぶのかみたいなものが核にあって、今回は闘いのためにカンナを連れ戻しにきた父親と、親に愛されたいと思ったカンナのすれ違いの話がドラゴンの闘い規模のスケールで展開するだけで。ただ、闘いの果てに束の間の安息を見つけたドラゴンが、それを守るためにまた闘うというのは皮肉なものであるなとは思いました。そしてそんな中であれができる小林さんはもう既に普通じゃないよなあと。ドラゴンと付き合っていくためとはいえ、貫くものと捨てるものへの判断が苛烈すぎる。

それから、読んでいるとドラゴンの世界に馴染みすぎてしまった人間と、人間の価値観に染まりすぎてしまったドラゴンたちがこの先どうなっていくのか、そういう不安を抱かせるような話でもありました。どこまで寄り添っても、人間はドラゴンになれないし、ドラゴンは人間にはなれない。その異種間コミュニケーションの根幹が、この先でもう一度問われそうだなと思う一冊でした。

【小説感想】りゅうおうのおしごと! 10 / 白鳥士郎

 

 このシリーズは将棋をテーマに勝負の世界と才能の話を描き続けているのだと思っているのですが、今回スポットが当たるのはJS研。小学生トーナメントである「なにわ王将戦」に挑む彼女たちの姿が描かれます。

この世界が甘くはないことは、年齢制限の壁と闘う者、三段リーグの魔物に呑まれる者、己の衰えに抗い続ける者と、これまでもずっと描かれてきたことで、それは子供だからといって変わることはありません。才能があるからと言ってそれがきちんと伸びるかは分からないし、才能がなければそもそも話にもならない。いつかは直面する現実があり、育てる側も思い悩む。厳しい奨励会の中ですり潰されたかつての小学生名人という才能を提示してから、小学生たちの大会に入る構成はまあ相変わらず容赦がなくて。

ただ、若いということは可能性でもあるというのがこの大会で見えました。そういう闘いを、JS研の子たちは見せてくれた。才能の多寡はもちろんあって、彼女たちはあいにはなれない。将棋の道に進むかどうかも違うし、そもそも進めない事情だってある。それでもここで勝って笑って、負けて悔し涙を流し、その中でしか得られない成長がある。彼女たちの想いが、努力が、繋がりが、将棋の中で花開く瞬間を、翼が見えたと表現するのはベタだけど素敵だなと思いました。綾乃の頑張り、澪の執念、震えました。そしてこれまで妖精か何かのような扱いだったシャルの芯の強さ、泣くでしょうそんなの。というかどの子も劣勢からの泥臭い粘り強さを見せていて、ああ八一の教え子たちっていう感じがします。

勝ちたかった。負けたくなかった。そしてその原点は、将棋が好きだった。その想いはただプロに向かうためだけにあるものではなく、それでも勝負の中で彼女たちを成長させて、彼女たちを繋いでいる。世界で一番プリミティブな輝きと可能性に満ちた、本当になんというか「小学生は最高だぜ」としかい言い様のないお話でした。

そしてまた同じように羽ばたく話でも八一のあいに対する育て方もあいの持った才能も常軌を逸している感じは本当にやばいなと。同じ世界の地続きにこれを描くのも、繋がているけれど、明確なラインがあるという感じで綺麗事にはしない怖さがありました。

あと、現小学生名人の馬莉愛が耳付きのじゃロリという、これまでも強烈なキャラいたけど流石にそれは無理があるだろというキャラで登場するのですが、神鍋妹とわかった瞬間にああそれなら仕方ないという気分になるので、あのゴッドコルドレンはリアリティレベルを狂わす能力があるのだなと思いました。

そして次巻への引きは姉弟子の三段リーグ。まあ、絶対に向き合わなくてはいけない話ですよねっていう。桂香さんの八一への言葉が、まさに自分を生き方も繋がりも将棋しかないところに追い込んでしまった姉弟子の根本的な不安定さを表していて、怖いですが、心して次を待ちたいと思います。

「でも銀子ちゃんには八一くんしかいないわ」 

 

【ライブ感想】BanG Dream! 7th☆LIVE RAISE A SUILEN 「Genesis」2/22 @ 日本武道館

 

A DECLARATION OF ×××[Blu-ray付生産限定盤]

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 バンドリ7thはリアルバンド活動中の3バンドで武道館3days、RAS出演日には各バンドからのゲストありで、オープニングアクトにシクレでARGONAVISというバンドリ全部入りのライブ。RoseliaはLVでRASとポピパは現地で見てきました。

3日続けてそれぞれのバンドのライブをするということで、キャラクターの中の人が実際にバンドとして演奏するというコンセプトは共通でも、やろうとしていることが3バンドそれぞれに違うんだということがよく見えるライブでした。音楽性はポップ、ゴシック、デジロックみたいな色付けが見えやすいのですが、ライブの色がここまで明確に違うものとして提示されたのは面白いし、3バンドを抱えている意味なのかなと。最終日にポピパのMCで西本りみが、前の2日を見て同じことをやろうとしても駄目なんだ、ポピパはポピパのライブをしなくちゃと思ったと言っていたのが、奇しくも今やっているアニメ2ndシーズンでポピパが抱えたテーマと合致していて、これぞ声優/キャラものの真骨頂と思ったり。

あと衣装替え中やアンコール前に流れるインタビューVTRで愛美が3rdライブでポピパはすごく練習もしてきたし最初の武道館の発表もあったのに、サプライズで初お披露目されたRoseliaに話題を全部持っていかれて悔しかったと言っていたのが、本当にそう! それ! そういうのもっと出してって!! って思いました。やっぱりね、3バンドあるからには、仲間であっても競って欲しいんですよ。そこから生まれるものが確かにあるはずで。そういう意味でも、この武道館でそれぞれの色が明確なものとして出てたのは良かったなと。

ちなみに今回見ていて思ったこととしては、ポピパは「リアルで演奏をする声優/キャラクターコンテンツ」で、Roseliaは「キャラクターとしてライブを演じるコンテンツ」で、RASは「ライブをする人たちにキャラクターを重ねるコンテンツ」なのかなと思います。やってることがちょっとずつ違う。

 

で、そんな色合いの違う3日間を見て私が最高だと思ったのはRASでした。いやほんともう最高に楽しかった。両国も楽しかったのですが、カバー曲メインのバンドということもあってRASの色という意味ではまだ薄かったと思うのです。それは本来長く活動する中で醸成されるものなのでしょうが、キャラクターがついたことでそこに一気に色が乗ったというか、RAISE A SUILENが確固たるものになった。我々はオタクなので、ちょっとした設定とイラストがあるだけでも、このキャラはこれこれこういう感じで、ここはこういう関係性で、バンドとしてはこういう目標があってみたいな認識がずずずっと構築される訳で、まあ凄いチートだなこれって思いました。

元々プロミュージシャン2人に経験者を交えているだけあって、ゲストを迎えてのバックバンド的な部分もしっかりしているのですが、やっぱりRASとしてのオリジナルが抜群に良かったです。ぶち上げることしか考えてないような既発4曲も本当に最高だったのですが、そこに来た新曲がパワーバラードで、そうだよお前を待っていたんだよっていう完璧さだった……。

激しいドラムと、ツーステ踏みながら掻き鳴らすギターと、ヘドバンしたりくるくる回ったり暴れてるキーボードと、テーブルに片足乗せて煽りまくるDJの真ん中で、低くかっこいい声のベースボーカルという布陣が、みんな好き勝手やっているようでまとまっているという凄い完成度でした。というかDJチュチュの人、別に経験者でもなくライブ2回目だよね? あのパフォーマンスは逸材では?? みたいな。「EXPOSE 'Burn out!!!'」の可愛い声で叫んで煽るラップ、最高にかっこよかった。Raychellの声とミスマッチなようで相性が良くて、これがRASって感じになっていました。

そして最後のメンバーごとのMCがね、本当に良くて。RASはバンドリの中でも特殊な、バックバンドから成立したものなので、声優がバンドに挑戦するというバンドリの強みになる物語性を持たない訳で、そういう面では弱いのかなと思っていたんですね。でも、ここにいる5人はミュージシャンとして武道館に手が届かなかった人や、声優として芽が出なかった人たちで、そういう挫折に近いところにいた人たちが、バンドリというワンチャンスを掴んで、バックバンドから夢の舞台にたどり着いたのがRASなんですよ。だからこれは諦めなかった者たちの、日陰からの「ざまあみろ!」の物語になる。それはまさに名前通り夢を撃ち抜く(BanG Dream)物語であって。

RASの曲って歌詞が何かに抗うというか、自らの存在を叫ぶような物が多くって、そういうイメージのバンドなのかなくらいに捉えていたのです。でも、イメージじゃなくてRASってまさにそういう存在なんだと思ったら腑に落ちるとともに沼に落ちた感覚がありました。MCで倉知玲鳳が、バンドをやる企画であるにも関わらず、私達はRASの前面に立つけれど、スタッフやファンまで含めたチームRASなんだと繰り返し言っていてたこと。RASというバンドとしてではなく、「RAISE A SUILEN」というプロジェクトに賭けた人たちの想いの結晶が、今しがた見た圧倒的なステージだったのだと思うと、パズルがハマったというか、ああそうだこれが「私の見たかったバンドリ」なんだと強く感じました。

本当に掛け値なく、最高の武道館でした。そして、ここがスタート地点なんだと思います。まずは神戸、この先のRAISE A SUILENが楽しみです。