2021年の9作(マンガ)

かげきしょうじょ!! / 斉木久美子

 

葬送のフリーレン /  山田鐘人・アベツカサ

 

メダリスト / つるまいかだ

 

メイドインアビス / つくしあきひと

 

進撃の巨人 / 諌山創

【マンガ感想】進撃の巨人 34 / 諌山創 - FULL MOON PRAYER

 

 

ダンジョンの中の人 / 双見酔

【マンガ感想】ダンジョンの中のひと 1 / 双見酔 - FULL MOON PRAYER

 

 

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 / 廾之

【マンガ感想】THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS U149 7、8 / バンダイナムコエンターテインメント・ 廾之 - FULL MOON PRAYER

 

 

まちカドまぞく / 伊藤いづも

【マンガ感想】まちカドまぞく 6 / 伊藤いづも - FULL MOON PRAYER

 

 

虚構推理 / 城平京・片瀬茶柴

 

 

2021年の5作(小説)

アンデッドガール・マーダーファルス 3 / 青崎有吾

【小説感想】アンデッドガール・マーダーファルス 3 / 青崎有吾 - FULL MOON PRAYER

 

 

同志少女よ、敵を撃て /  逢坂冬馬

【小説感想】同志少女よ、敵を撃て / 逢坂冬馬 - FULL MOON PRAYER

 

 

零號琴 上・下 / 飛浩隆

【小説感想】零號琴 上・下 / 飛浩隆 - FULL MOON PRAYER

 

 

魔法少女育成計画 breakdown 前・後 / 遠藤浅蜊

【小説感想】魔法少女育成計画 breakdown 前・後 / 遠藤浅蜊 - FULL MOON PRAYER

 

 

Y田A子に世界は難しい / 大澤めぐみ

【小説感想】Y田A子に世界は難しい / 大澤めぐみ - FULL MOON PRAYER

 

【小説感想】同志少女よ、敵を撃て / 逢坂冬馬

凄惨な独ソ戦争を舞台に、狙撃兵となった少女セラフィマが、戦場で何を見て、何を感じて、何をしたのかを追いかけていく、アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。

セラフィマを通じて見る戦場の凄まじさ理不尽さ、それと両立してしまう戦闘シーンの高揚感、村を襲われた復讐心から始まった彼女の強烈な感情の揺らぎ、狙撃兵となった隊員たちの間にある関係性、それぞれのキャラクターの魅力。とにかくどの要素も高レベルで隙がなく読んでいてずっと面白い、評判にたがわぬ完成度の一冊だったと思います。

 

印象的だったのは、訓練学校から最初の戦場に放り出されたウラヌス作戦。学校生活の中で少しずつ生まれていた隊員たちの絆も、厳しい訓練を抜けて得ていた自信も、すべてを吹き飛ばす戦場の圧倒的リアル。どこか柔らかいキャラクター小説の印象がしてきたところを張り倒されるような、鮮烈な章でした。

そしてその先もスターリングラードケーニヒスベルクと激戦地を転戦するセラフィマたちが戦場で誰に出会い、何を見たのか。極限状態の中に、様々な考え方があり、生き方があり、誰もが何かを選び続けている世界。戦場はいつだって死と隣り合わせで理不尽で残酷で、ただこの小説、理屈に合わないことは起きないのが怖いところだなと思いました。狂っているのであれば、そういうものだったで逃げられるけれど、それを許さない作りというか。

むしろ、極限状態の中で露わになるのは、その人物の地金の部分で、様々な装飾を取り払ったそれをきちんと積み重ねた上に、現実が立ち上がってくる感じ。ごまかせない、理想では覆えない、そういう場が戦場なのだと思いました。そしてその中を生き抜いた少女狙撃兵だったから、あの結末、そしてこのタイトルに至るのは、必然であったように思います。

それだけでなく、各キャラクターの本心や行動の理由も最後になって明らかになるのですが、驚きよりもそうだよなあと思っていたところにしっかりと行き着くので、尚更まっとうに組み上げられ、組み上げられた結果がこうなるのかという思いがありました。

 

登場人物の中ではシャルロッタが好き。セラフィマとの関係、ヤーナとの関係、そして部隊の中での自分の役割まで含めて、戦場の中であのキャラクターで在り続けたという強さが眩しいです。そしてエピローグも大変に良かった。読者として追いかけたのはセラフィマの人生だけれど、きっと彼女には彼女の戦いがあったのだろうなあと思いを馳せたくなる、素敵な人であったと思います。

【小説感想】虚構推理 逆襲と敗北の日々 / 城平京

 

マンガ単行本と小説が同時に発売された「岩永琴子の逆襲と敗北」がメイン。様々なエピソードでずっと示され続けてきた、秩序を司る者、怪異たちの知恵の神としての岩永琴子という存在の在り方。そこに抱えた矛盾に加えられる六花からの一撃は、岩永琴子というこのシリーズの根幹を揺るがすもの。ああ、「名探偵に薔薇を」の城平京だなと感じる、シリーズのターニングポイントになる一冊でした。

 

山中でキリンの亡霊に襲われ崖から落下した男性4人組。絡み合った思惑と計画がたまたま居合わせた六花の存在とキリンの亡霊のせいで酷くこんがらがり、それを亡霊の存在なしで解決に導くために、琴子は真相の推理と虚構の構築を迫られる。そんな虚構推理らしい、でもこれまでとは違う趣向の事件で岩永琴子の岩永琴子たる所以を十分に示してからのこれ。事件そのものを踏み台にして、作品構造を逆手に取った大転換に、役割自体に追い詰められる主人公はまさしく城平作品だなあと。

人間の法の範疇では動かない、真実を明らかにする探偵ではない、目的のためには人倫にはもとることもいとわない、怪異たちと人間の調停者としての知恵の神。だからこそ、どうして一番バランスを狂わすような存在を、一番近くに置き続けているのか。九郎と琴子の間に、どんな未来が描き得るものか。そこは最大の矛盾点として最初から開示され続けていた訳ですが、それをこんな手はずを整えて、致命的な形で突き付けてくるのは流石だと思いました。

そしてそれすらステップにしてしまう、小説だけに収められた九郎と六花の会話がやばい。一見すると九郎が分かりづらくともいかに琴子を大切に扱っているのかを話しているだけですが、ああ、そこまで分かっていて、そう解釈した上のそれなのかという。岩永琴子が背負わされた役割と桜川九郎が化物にされたこと、その二つの上でかろうじて取られているバランスは、何かが崩れた瞬間に成立しなくなることを、逃げ道をつぶすように一つずつ立証していく、救われない、笑えないエピローグであったと思います。

そうなるとこの絶望的な物語構造を、どうやって打ち破っていくのか、あるいは打ち破れないのかがこの先の見所ですが、正直もう何も想像がつかないので、そこは楽しみに待ちたいなと思いました。

【映画感想】劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!

物語の持つテーマとしても、キャラクターの選択としても、それはそうなるだろうと、何も言うことは無いと思うのです。それはそう。でも、観終えて最初に思ったのは、やっぱ辛いなという気持ちではあるのでした。

 

タイトルが絶対LIVEで闇のワルキューレが出るというから、何か紅白歌合戦的なお祭り映画という先入観がありました。実際紛うことなく紅白歌合戦ではあり、前作までの積み残しを豪勢に盛り盛りで消化していくお祭り映画でもあったのですが、いやしかし「LIVE」ってそっちの意味かあ、なるほどねえという、ストレートに生きることの意味を問うてくる映画でした。そしてその中心にいるのがフレイア・ヴィオン

元々短いウィンダミア人の寿命を、ワルキューレとして歌うことで縮めている描写は前々からあって、それが進行してこれ以上は危ないとなった時に、彼女は何を選ぶのかが問われるのが今回。答えはワルキューレとしてハヤテのために歌うことでした。それがフレイアが生きるということ。確かに、彼女はそうやって壁を越えて、夢をつかんできたのだから、どこからどう見たって正しい答えだと思います。そう思うだけに足る、今この瞬間を生き切ったという熱量と感情の強さがこの映画にはあったと感じます。

 

それでも、フレイアの性格や序盤の里帰りのシーンとかを見ていると、どうにもこうにもフレイアは親戚の子供みたいな印象が強くって、それがようやく見つけた恋をして、さあ幸せになろうって時になんでだよという気持ちが生まれるのです。いやそうは言ったって、生きてこそだろうよ、早すぎるだろうと。

でも、その認識はもしかしたら違っているかもしれないというのがミソというか、この話の憎いところで、そう思うのはやっぱり私の感覚だからなんですよね。序盤から念を押すように繰り返し語られる、ウィンダミア人との違いはなんだったでしょうかと。3倍の寿命を持つ奴が、何を分かったような口をという話にもなる訳です。

フレイアをまだこれからの子供みたいに思うのは私の感覚に過ぎなくて、ウィンダミア人としては人生折り返しまで来ている立派な大人で、同じくらいの歳の子たちは結婚して子供もいるような年齢です。時間が限られているということは、選択できる一度の機会だってずっとずっと重たい訳です。そんな彼女のことを、何か分かったように早すぎるなんて言えば、それは無邪気に10年後を語って彼女を傷つけたハヤテと変わらない。

そうやって気が付けば作中に大きなテーマとしてあった人種の違いは、フレイア・ヴィオンというウィンダミア人の生き方に何を感じたのかで、観ている私にも突きつけられているような気分になりました。ここにはずっと異文化コミュニケーションという命題があって、このラストをどう受け止めるかで視聴者も試されている、そんな感覚。音楽と戦闘シーンが彩るド派手なエンターテインメントでありながら、物語の結末をシンプルに喜んだり悲しんだりだけではいさせてくれない、そういう深みというか、ある種の意地の悪さのあるお話だなと思います。

【小説感想】偶然の聖地 / 宮内悠介

6ページほどの掌編が重ねられていくのですが、積みあがっているんだか積みあがっていないんだかよく分からない、何とも奇妙な話が続いていく一冊。イシュクト山という願いが叶うという幻の山を中心にしながら、まずその山が西はシリア、東はカシミールから入るというところでんん? となって地図を確認し、その後も大真面な顔をして流れるように語られていく胡乱なエピソードたちにノせられるように旅に出る、そんなお話でした。

どこまで本筋にかかわってきて、どこまでいい加減な話なのか。事実に基づいたことはどこまでで、どこからが大法螺なのか。大量の作者による注釈は何なのか。世界医と世界のバグってなんだ。プログラミングの講義始まったんだけど? もしかしてメタフィクションなのか? というかこいつら誰だ? 今挟まった何の関係も無さそうな話なんだったんだ? と翻弄されながら完全にこの作品のペースに巻き込まれて、いつの間にか楽しくてしょうがなくなる不思議な一冊。こういう大真面目な顔をしながら事実からずれていく法螺話、大変に大好物なので最高です。

そして終盤にはなんとその散らかっていた設定や登場人物たちの物語がきちんと収束……収束したけどこれは何だ、本当にそれでいいのか?? みたいな着地を決め、真剣そうに見えて突っ込みどころ満載みたいな怪しげラインを最後まで駆け抜けていったのが大変よろしかったように思います。こんなのありって感じもありますが、個人的には断然ありの楽しい読書体験でした。短編集(超動く家にて)でも感じたのですが、私は宮内悠介作品はこういう変な話が好みなのだと思います。

【小説感想】零號琴 上・下 / 飛浩隆

 

 500年に1度の大假劇に向けて巨大楽器<美玉鐘>が再建される惑星美縟に、特殊楽器技芸士のトロムボノクとその相方シェリバンは、大富豪パウロから依頼を受けて訪れる。大假劇に向けて進められる準備の中で、少しずつ明らかになってくる美縟という世界を成立させている物語、そしてついに訪れる上演日に暴かれる真実とは。

とあらすじを書いても何分の一も伝わらないような大スケール&超密度の巨大エンターテインメント作品。解説を読んで作品自体の持つ批評性にもなるほどと思ったものの、とにもかくにもシンプルに圧倒的で面白かったです。

個人的に廃園の天使シリーズがとても美しく構築されていることは分かるけれど、私では理解できない難解なものという印象があったので身構えていたのですが、これはもう有無を言わさぬエンタメ力があって、圧倒的物量の巨大建築を見てすっげー! となるような気持ちで読めました。それでいて細かいところまで精緻にくみ上げられていて、なんというかもう本当に凄い。どうやったらこんなものが出来上がるのという感じ。

とにかくアイデアと情報量がものすごくて、この部分だけで小説ができるんじゃないかというものが湯水のように注がれています。そして、それぞれのキャラクターの思惑から美縟という世界の成立が抱える秘密、大定礎を描く假劇とそれを作中作とのクロスオーバー二次創作で超越しようとする挑戦に、暗躍する黒幕、主人公たちの過去まであらゆるものが同時進行で複雑に絡み合いながらクライマックスまで駆け抜けます。それでいて、物語は主人公たちが美縟の謎に迫っていくというストーリーラインを外さずに、リーダビリティは高いし息をつかせぬ展開は勢いがあって思わず一気読みする面白さ。これだけ込み入っているのに読んでいる時にはそう思わせないし、ラストに向けて全ての要素が噛み合って語り切られる盛り上がりは最高でした。

スケールの大きさと細部の精緻さ、複雑で綿密なストーリーと読みやすさ、奥深さとシンプルな面白さのように、ともすれば相反しそう要素が異様なハイレベルで両立している、これは凄い小説を読んだと思う一冊。とても楽しい読書でした。

個人的には物語がすべてを駆動して、假劇による再生産で成立している美縟というあり方は、終わってしまった終わらない夢、閉じた美しいものというイメージがあって凄く好きです。ただ、終盤で明かされた秘密、そこに重ね合わせられたフリギアの最終回を踏まえても、これはそこにある欺瞞と限界を示す物語であったのだろうと思いました。