キリサキ / 田代裕彦

キリサキ (富士見ミステリー文庫)

最後の方がえらいことに。
とにかく最後の方の謎解き。唖然とする真相が何段階かに分けてやってきます。それから少し混乱します。それでいてちゃんと設定が活かしきってあることに感心。謎解きの醍醐味が意表をつく真相にあるなら、これはかなりの小説だと思います。
話は死んだ「俺」がナヴィゲーターによって「霧崎いづみ」として生き返らせられるところから始まります。いづみの通う女子高で女子高生連続殺人犯キリサキによる被害者が出て、俺=霧崎いづみはキリサキの正体を突き止め、元の体に戻るべく行動を開始する…って言うと王道な気もしますが、ひねくれっぷりと底意地の悪さがただごとではないので、そうは行かないのが面白いところ。大体にして俺がキリサキなんだからそもそも始点が間違ってます。そして、アイデンティティと肉体の乖離と時間軸と多人数の意図がねじれて絡まった上に現れる真相とその結果の後味の悪さもなかなか。これら全ての要素がきちんと構成されてるんだから良くできてます。
全ての物事を目的のための条件と手段としかみなさない主人公の考え方に拒否反応を示さないで、底意地の悪い物語が好きなら読んでも損は無いかと。
個人的にはもう少し文章が洗練されてるともっと読みやすくなるのではないかと思いました。所々なんとなく違和感があるような気がしたので。
満足度：B