多重心世界シンフォニックハーツ 下巻 多声者の終焉 / 永森悠哉

上巻からずいぶん間が空いて出版されたシンフォニックハーツ下巻。400ページ超の力作となっています。
上巻ラストの驚愕の事実をベースに、多くの勢力の絡んだ闘いのスケールが大きいです。さらにこの小説の場合、多重人格者であることが普通の世界の話なので、人格ごとに名前があり性格も違い、キャラクター数はいよいよ膨大。これだけのキャラクターとそれぞれの所属する様々な勢力が争う展開はなかなか面白いです。
アーモネイディアという惑星の設定は魅力的ですし、その背後の謎とのリンクのさせ方も中々。大きく広げた設定は魅力的。キャラクターも、ヒロインのリリンとエオリアという二つの人格が共にソロ想いをよせているなど、多重人格ならではの面白いシチュエーションが多かったです。ただ、このあたりはもっと膨らませた方が面白くなったかなとも。そしてこの芯の強いお嬢様であるエオリア、勝気で跳ねっかえりのリリン、傲岸不遜な殺人者シュゼットと一粒で三度美味しいヒロインは魅力的なキャラクターでした。個人的にはシュゼットが好き。そして、ラストの完全では無いけれど、前向きな余韻を残す終わり方も良かったです。
ただこの小説、設定にキャラクター、ストーリーといったところは魅力的なのですが、スケールを大きくしすぎている感があって、どうも上手く料理されていない印象を受けます。大きすぎる物語に、足腰がついていかなかったというべきか。あまりに都合の良い展開や、過剰な説明が合ったと思うと描写が足り無いと感じる部分もあったりと、ちょっとこなれていない印象。語り口もメリハリがいまいち感じられなかったりと、面白い発想があるだけに残念に感じられる部分が多かったです。
満足度:B−