円環少女 6 太陽がくだけるとき / 長谷敏司

冒頭からラストまでクライマックスで一気に駆け抜けるジェットコースター展開が、400ページ近い分量と圧倒的な濃密さで迫ってくるという、なんだか凄い小説でした。
核を手にしたテロリストが日本という国に対して脅しをかけるという表向きな事件だけで大事なのに、そこに魔法使いたちと公館、地下都市の住人たちと色々な人々が絡んできて、スケールの大きな物語に。現在の魔法使いを取り巻く状況、日本という国を取り巻く状況、その中で生きている人々という要素だけではなく、そこに史実をもとにした日本の昭和史を絡めているので、話に厚みがあります。事実に基づいた日本の歴史と、魔法使いと人間の歴史を融合させたファンタジーの歴史を創り上げ、その上で様々な人々と様々な組織を動かし、数多の想いの絡み合う壮大な規模の闘いを描き、それをまとめきった作者の力量に素直に感嘆。読んでいる方が消化しきれないほどの想像力は素晴らしいと思います。それでいて純粋に魔法バトルもの魅力やキャラクターの魅力もあって、単純にエンターテイメント的な意味でも面白いですし。
ストーリーはメイゼルを助けるため、すべてを捨てて地下都市に臨んだ仁の闘いがメイン。常に苦境に立たされ、それでも自分の守りたいもののために戦い続ける仁は、無様でもありますが格好良いです。でも、この物語はそんなに簡単に「正しさ」を用意しているはずもなく、仁の行動も他のどのキャラクターの行動も、矛盾と欺瞞に塗りつぶされていくような展開の連続。結局のところ単純な正しさなどどこにも無くて、それぞれがそれぞれの想いを賭けて生きて闘った結果としてのこの物語だという気すらします。
でも、だからこそ、その中でそれぞれが貫いた想いにはグッと来るものがありましたし、このキャラクター達は皆懸命に生きているんだという意志の力のようなものの確かな感触があって、やっぱりこれは凄みを感じさせる小説だったと思うのでした。
今までとは変化をして、より難しくなった状況の中で、仁やメイゼル、きずな達が何を想い、何信じて、何をしていくのか、この先の話も楽しみです。
満足度:A