MAMA / 紅玉いづき

MAMA (電撃文庫)

MAMA (電撃文庫)

言葉には力があって、物語は心に響く。
そんな当たり前なことを再認識させてくれる小説でした。読めたことが、幸せです。
サルバドールという魔術師の一族に生まれながら魔術の才を持たず、落ちこぼれとして疎外される少女トト。サルバドールに封印された人喰いの魔物アベルダイン。孤独を感じる二人は出会い、トトは魔物にホーイチという名を与えて、彼のママになると言います。そうして築かれた、お互いを想い強く結ばれた、閉鎖的で、けれど満たされた関係が、年月とともに少しずつ変化していく、という物語。
ストーリーはシンプル。キャラクターの数も多くはない。それでも圧倒されるような力を感じる物語でした。生きること、人と人の絆、受け継がれる想い、そして、愛すること。単語で表現してしまえば安っぽくなってしまいそうな事が、言葉の中にぎゅっと籠められて、機微豊かに表現されているのはもう凄いとしか。読み終わって思わずため息が漏れました。善いことも悪いことも描きながら、芯の部分では人を優しいものとして描いていることも、読後感を温かいものにしていた印象です。
この一冊に「MAMA」ともう一遍「AND」という短編が入っているのですが、「AND」もまた素敵な物語。「MAMA」の後の話に当たるのですが、それ自体できれいに完結している「MAMA」に対して、蛇足にならず補完し合い、しかも「AND」だけで見ても楽しめるのが良い感じ。ダミアンを想うミレイニアの強さが、とても印象的でした。
あと、相変わらずあとがきが素敵。この人の書く文章には、人の心を動かすような、何か言霊的な魔力があるに違いないと思うのです。