- 作者: 高橋しん
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/04/30
- メディア: コミック
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世界の終わりを描き続けてきた高橋しんが、終わりゆく世界で生きるということに一つの答えとして見せたのは、毎日ご飯を作り食べる、そんな素朴で強かな営み。
都心は壊滅状態で、高濃度酸素は毒ガスで、街は巨大な花に汚染され、経済も都市機能も壊滅的な打撃を受けていて。そんな世界背景はこれでもかというほど描かれているのに、その中で描かれる奥たんの日常は揺るがず騒がず、食材を買って、自ら育てて、そして料理に腕をふるって、食べて、旦那の帰りを待ち続けるただそれだけ。
この状況と乖離したほのぼのさ加減にはミスマッチ的な気持ち悪さすら感じるのですが、逃げだした兵隊の青年が異物として混入しても揺らがないその日常には、人が生きるという営みを根本から支える確かな力強さがあるようにも感じます。厳しい生活は確かにそこにあって、待てど旦那は帰って来なくとも。食べること。生きること。その強かさ。
奥たんの在り方は極端に素朴過ぎて逆に異様で、これはこれである種の狂気だとは思います。でも、壊れていく別の意味で狂った世界の中で、それでもそこで生き物が生きているということだけを純粋に描くための、ある種の象徴なのかも知れないと感じました。