- 作者: 久住四季,カツキ
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2009/08/10
- メディア: 文庫
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これでもかというくらいにいかにもな要素を積み重ねたライトノベルミステリになっている辺りはさすがにこの作者だなという感じ。そして冒頭に語られる、悪魔と主人公である譲の会話が興味を引っ張り、魅力的なキャラクターたちと王道ながらにわくわくするような設定と展開に、思わず引き込まれて読んでしましました。
どこか抑えたテンションの語り口と、記号的で、でもギリギリのところで世界観と乖離していないキャラクターの描き方は、「トリックスターズ」の頃からとても好み。今回も、探偵役の少女うぐいすがひきこもりで頭脳明晰で小難しいこと言って譲を幻惑している辺りでやられて、そのうぐいすがかなりストレートに好意を向けているのに、どうしようもなく鈍感な譲との関係にニヤニヤさせられました。事件後の部屋でのシーンとかもう!
そして、前半で語られる論理学の話は大学の授業で少し齧ったことがあるだけに、章タイトルに「ゲーデルの不完全性定理」とか持ってこられるといやがうえにもテンションが上がってきます。依るべき基盤を解体していくような、序盤のうぐいすと譲の問答が面白かったです。
そんな感じでとても面白く読めた作品なのですが、ラストからオチにかけてはちょっと失速した感じというか、思いがけずあっさりと終わってしまってちょっと拍子抜けな部分も。散々悩まされて幻惑された先が、ほんの少しの見方の変化というのもそれはそれで面白いし、テーマにのっとって非常に計算された結末だと思うのですが、やはり物足りなさはあるような気もしたのでした。確かに、言っていることはブレていなくて、この論理でこの悪魔でこの証明なら、この肩すかしな結末が一番正しいとは思うのですが、エンタメ的にはそれでいいのかなという気も……。
とはいえ、久しぶりに久住作品を読めて良かったです。トリックスターズとの世界観のリンクもファン的には嬉しかったところ。作者の次の作品も楽しみに待っていたいと思います。
以下ネタばれありにつき反転
途中までの展開は、なんとでもロジックは組めるけれど、最終的にはどうやっても証明できないモヤモヤした状況。手がかりに見える情報だけは氾濫しているのに、それをどう繋げても答えにならない、何処までがフェイクの情報で、何処からが本当に必要な情報か分からない。その上で序盤に語られた論理学の話が、キャラクターも読者も縛っているような感じ。
その幻惑された状況自体は非常に面白く読めるのですが、その結末の肩すかしっぷりが、小難しく考えていたことをあざ笑われているかのよう。
状況を作っている最大のポイントが<判別直感>の素質による嘘発見という時点で、記憶が無ければ嘘発見では分からない=多重人格、記憶改竄の可能性までは簡単に思いつくし、多重人格自体は微妙にヒントが出ていない訳でもないのだから、可能性は考えてもよさそうなもの。
にもかかわらず、論証の前提条件として完全にその可能性を排除して組み立てて答えがでなくなっていたのだから、悔しいものがあります。だから閉じた体系の論理には限界がある、悪魔=罪を背負った別人格という概念を導入すれば証明は簡単に可能、なのでしょうけれど。
しかし、可思議は博士をあの場で殺すのではなくて、入れ替わりで日記の改竄を実現し、一緒に逃げた先で改めて殺せばよかったんじゃないかという気が……。